ソル・ルウィット:近代芸術の父の軌跡をたどる

ソル・ルウィットはアメリカを代表する芸術家で、近代芸術のコンセプチュアル・アートを提唱した人物です。代表作品には、立方体を組み合わせてジャングルジムのような建造物にした「透けた立方体」があります。

視覚的な作品を作る上で、1つの表現方法となっているミニマル・アート。これは、無駄なものをとことん省き、限られた物質のみで芸術を表現したものです。抽象芸術の純粋な部分を抜き出したこの芸術の考え方は、近代芸術に多くの影響を与えてきました。

そんなミニマル・アートの中心的存在となったのがソル・ルウィットです。ソル・ルウィットは、規則性のある法則に従った壁画や立体作品を多く生み出してきました。彼が近代芸術の中でどのような功績を残してきたのか、どのような影響を与えてきたのか、詳しく紹介していきます。

1.ソル・ルウィットの略歴

ソル・ルウィットがどのような人物なのかを紐解いていくため、まずは簡単な略歴について紹介していきましょう。

1-1.芸術家になるきっかけ

コネチカット州ハートフォードで生まれ、シラキュース大学美術専攻を卒業。すぐに朝鮮戦争の兵役につきます。ここでは戦場で兵士として活躍するのではなく、大学で学んだ美術を活かしポスター制作などの特別舞台に配属され、戦争に関するポスターを制作しました。

兵役が終わると、20世紀を代表する建築家イオ・ミン・ペイの建築事務所で働くようになります。その後彼は、あることに気づきました。それが「芸術家は、自分の手を使わなくても作品を作ることができる」ということです。

この気づきこそが、後に彼の芸術家としての人生に大きな影響を与えることになります。当時は、建築会社で働きながら抽象表現の絵画を中心に作成をしていましたが、次第に立体作品を手がけるようになっていくのです。

1-2.芸術家としての活動

建築会社を退職後、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で働き、仲間からの誘いで若手芸術家のサークル活動に参加します。若手芸術家との交流は彼にとって良い刺激となり、数多くの代表作を生み出すようになりました。そして現在では、物質で芸術を表現するコンセプチュアル・アーティストの先駆者として、若手芸術家から作品を研究されるようになったのです。

2.ソル・ルウィットの代表作

ソル・ルウィットの作品には、大きくわけて2つの代表作があります。それぞれの作品について詳しく解説をしていきましょう。

2-1.透けた立方体

透けた立方体シリーズといわれるジャングルジムのような作品は、ソル・ルウィットを語る上で欠かすことのできないもの。この作品は、細い角材を組み合わせた立方体をいくつも組み合わせ、幾何学的な規則性のある建造物として表現されました。

正三角形、正方形、正十二面体などの「正」がつく形は、あくまで人間が理論的に考えたものであるという考え方を打ち破るかのように、立体的にその形を表現することに成功しました。

この透けた立方体の中でも、最高傑作と呼ばれる作品が「不完全な透立方体の変異集」。これは、3辺から11辺までを使用して何種類の不完全な立方体を表現できるかを追い求めた作品です。

2-2.絵画作品

彼の作品は、立体的なものだけではありません。幾何学的な規則で作られた絵画作品も多く生み出されています。特に有名なのが、ニューヨーク近代美術館に展示されている、赤・黄・青・緑・紺色の長方形が、色を順不動にして不規則に並べられた作品。一見不規則に色が並べられているようにみえますが、じっくり観察すると色合いが規則的に並べられているということがわかります。

彼は、このような視覚効果と幾何学を活用した壁画作品を多く残しています。これらの作品は、彼が勤務した経験もあるニューヨーク近代美術館に多く展示されているので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

3.ソル・ルウィットの作風と特徴

ソル・ルウィットは視覚に不思議な感覚を訴えるものばかりでしたが、作品を作る上でいくつかのことに気をつけて制作を心がけていました。

3-1.計画と決定の重要さ

彼は、作品を作る上では計画と決定が重要であり、実際に制作をする過程は実は不要であると考えていたのです。この考え方は、これまでの芸術家の考え方とは大きく異なるものでした。

自分が制作しなくても、しっかり計画を練れば作品を作ることができると考えていたため、透けた立体シリーズを制作する時は自分が制作に携わるのではなく、業者に依頼をして制作をしたというエピソードがあります。このことにより、プロデュースも芸術の1つである、という概念を作りあげることに成功したのです。

3-2.屋外の空間も利用

屋外で制作された彼の作品は少なくありませんでした。その理由として、素材に石や鉄といった室内には適さない重い素材を用いたためです。また、外の空間を利用することにより、小さい作品だけでなく大きな作品も手がけることができるようになりました。

もちろん、屋外で制作する壁画にも「このような規則に乗っ取って絵画を制作すること」と指示をし、自らは制作に携わらないというスタイルを貫きました。

3-3.プロデュースに徹する姿勢の背景

先述の通り、彼の手がける作品は彼自身が制作をするのではなく、業者に依頼をして制作をするものばかり。絵や彫刻作品を自ら作れなかったというわけではありません。建築会社にいた頃に感じた“芸術は自分の手をほどこさなくても表現することができる”というスタイルを貫いたからです。

また、彼のこのようなスタイルが近代芸術の新たな概念“コンセプチュアル・アート”へと繋がります。

4.コンセプチュアル・アートとは?

ソル・ルウィットは、1960年にコンセプチュアル・アートという新たな概念を発表します。コンセプチュアル・アートとは観念芸術とも呼ばれるもので、作品を楽しむのではなく、作品を通して物事に対する色々なことを考えるきっかけを与えるというものです。

4-1.具体例

コンセプチュアル・アートの具体的な例を紹介していきましょう。

・ジョセフ・コスースが発表した、「3つの椅子」。

椅子の写真、実際の椅子、辞書に登場する椅子の意味が並べられて紹介されています。最初はなんのことを説明しているのか全く理解できませんが、次のようなことを考えることができます。

椅子というのは、座ることができる椅子もあれば、写真の椅子もあり、文章で説明する椅子もあるということ。「椅子」というもの1つを例にしても様々な考え方ができることがわかります。

コンセプチュアル・アートとは、作品はあくまで通過点でしかなく、その作品を見た人がどのように捉え、考えるのかということにテーマを絞った芸術なのです。

4-2.派生する作品

この概念が提唱されたことで、さまざまなコンセプチュアル・アートが誕生しました。先ほど紹介した言葉と作品を結びつけるようなものや、生きた彫刻として自分たちの体をオブジェに見立てたギルバート・アンド・ジョージ、社会と芸術を密接なものとして表現したハンス・ハーケなどの芸術作品が登場しました。

こうしてコンセプチュアル・アートは近代の芸術を語る上では欠かすことができないものへと変化したのです。

5.まとめ

ソル・ルウィットの作品の幾何学的な規則性を持つ作品は、見る人の脳内にある概念を崩してくれるものばかり。また、どの作品も刺激的で一度目にしたら作品の虜となるようなものも多くあります。彼の提唱したコンセプチュアル・アートは時代とともに形を変え、今後も新しいものを生み出していくでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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