ケミカル・ブラザーズ:ロックとダンスを融合したテクノユニット

ケミカル・ブラザーズのトム・ローランズとエド・シモンズは、1990年代にロックとダンスを融合したサウンドを確立させました。また、ロックを代表するミュージシャンとの交流もあり、それまでのダンスミュージック界の印象を大きく変えました。今回はそんなケミカル・ブラザーズにスポットを当ててみましょう。

1990年代に活躍したケミカル・ブラザーズ。テクノユニットである2人は、ビッグ・ビートという大波に乗ったのです。ビッグ・ビートとは、ロックやダンスミュージックを融合させた、ロックビートの効いたダンスミュージックです。

90年代のイギリスでは、ビッグ・ビートを代表するグループが現れ始めました。ケミカル・ブラザーズの先輩であり、ギターサウンドなどを用いたプロディジー、テクノ感の強いアンダーワールド、これから紹介するケミカル・ブラザーズです。この3つのグループはビッグ・ビートの代表格であり、世界的にも人気を集めたグループでした。

この中でも若手だったケミカル・ブラザーズは、ロックとダンスの黄金比率を見つけたと言えるほど素晴らしい調合をします。さらに、ダンスミュージックに興味もなかったブリットポップ真っ只中のロックファンをも虜にしました。

今回は、ケミカル・ブラザーズについておすすめ楽曲も交えながら紹介していきます。

2人の大学生が生んだ危険な調合

トム・ローランズ

ケミカル・ブラザーズの誕生は、1989年のマンチェスター大学でした。ここでトム・ローランズとエド・シモンズが知り合い、テクノユニットであるダスト・ブラザーズを結成します。ちなみに当初は、ケミカル・ブラザーズという名前ではありませんでした。

80年代後半から90年代のイギリスは、マッドチェスターと呼ばれるムーブメントの真っ只中でした。ダンサブルなビートとドラッグなどを象徴とする、サイケデリックなサウンドが特徴的なロックミュージックです。代表バンドとしてストーン・ローゼスやニュー・オーダーがあげられます。ケミカル・ブラザーズもこのマッドチェスターからの影響を大きく受けていると考えられます。

エド・シモンズ

特にニュー・オーダーのことは好きだったのでしょう。ニュー・オーダーが経営していたハシエンダというクラブに2人は入り浸り、DJとして活動するようになります。DJのユニットであったため、ダンスやテクノをベースとした音楽が中心になりますが、マッドチェスターのムーブメントは2人に大きな影響を与えていました。

そして1992年、インディーズレーベルから「Songs to the Siren」を発表。この時すでに、ロックとダンスを融合した独特のサウンドは頭角を表し始めていました。この楽曲が評価されたこともあり、リミックスなどの仕事をもらえるようになります。

ファーストアルバムに収録された楽曲「Chemical Beats」を94年にリリース。この「Chemical Beats」はライブでも演奏され、ケミカル・ブラザーズの初期を象徴する楽曲になります。この頃には人々を熱狂させる、ロックとダンスの危険な調合に成功するのです。

この曲が大きな反響を呼び、プライマル・スクリームをはじめとする様々なバンドのリミックスを手がけるようになります。そして、アルバム制作のチャンスを掴むのです。

ロックファンを虜にした「Setting Sun」

ファーストアルバム制作の時、彼らの名前はまだ「ダスト・ブラザーズ」でした。しかし当時「ダスト・ブラザーズ」という同じ名前のグループが存在し、アメリカで活躍していたのです。このグループはベックのアルバムや映画音楽などを手がけ、音楽界では有名だったこともあり、改名を余儀なくされます。

そして、2人の仕事の幅を広げ、大きな出発点となった楽曲「Chemical Beats」から取り、ユニット名をケミカル・ブラザーズに改名。そして完成させたファーストアルバム「Exit Planet Dust(さらばダスト惑星)」は、過去の「ダスト・ブラザーズ」という名前からの脱却と新たな幕開けを意味しています。

そんな「Exit Planet Dust」に収録された「Chemical Beats」は、ロックとダンスを調合させた、ノリの良い豪快なナンバーになっています。ただ、このアルバムで私がおすすめするのは「Leave Home」です。ロックばかり聴いている人にとっては、重低音のベースは臓器にグッときます。

この頃のケミカル・ブラザーズは「デジタル・ロック」などと言われ高い評価を得ていましたが、次にリリースしたアルバム「Dig Your Own Hole」でついにイギリス1位を獲得します。これはケミカル・ブラザーズを代表するアルバムとなりました。

私はサイケデリックなサウンドが好きですが、サイケ思考の人には脳内麻薬がダダ漏れ状態になるでしょう。特にビートルズの「Tomorrow Never Knows」を意識して制作された「Setting Sun」の評価は高く、「現代版Tomorrow Never Knows」と言われています。

アルバム全体を通しても威力の強いドラムと、歪みがかったベースを土台に、エレクトロサウンドが飛び交います。また、ケミカル・ブラザーズのアルバムの中ではサイケ色が強いアルバムで、生粋のロックファンも虜にしたアルバムでもあります。

その理由は、「Setting Sun」のボーカルに、オアシスのノエル・ギャラガーが参加していることがあります。
彼の参加により、ロックとダンスが強く結びつけられた瞬間がうまれたのではないでしょうか。また「Setting Sun」は、ダンスに抵抗がある人でも聴きやすいのが良いポイントです。

その後も立て続けに名盤とも言えるアルバム「Surrender」をリリース。トランスがかったサウンドが特徴的で、当時の流行りも取り入れています。ロックとダンスの調合は健在で、「Let Forever Be」では続けてオアシスのノエル・ギャラガーがボーカルとして参加しています。「Setting Sun」ほどのサイケ感はないものの、ブリットポップ感が少し強く出た楽曲になっています。

ケミカルサウンドの変化

3枚のアルバムを出したケミカル・ブラザーズですが、4枚目以降からはロックとダンスという構図にまた新たなサウンドを足していきます。

4枚目のアルバム「Come With Us」は、それまでのケミカル・ブラザーズの集大成を感じさせるアルバムです。ロックとダンスの要素がうまく調合されています。代表曲である「Star Guitar」のような体全身でノリにいく音楽ではなく、音楽を頭から浴びるようなサウンドとなっています。真新しいことをやってはいませんが、洗練された音楽を聴くことができるアルバムになっています。

その後、2005年にリリースしたアルバム「Push the Button」は、キャッチーな楽曲が非常に多く、これまでのケミカルサウンドにヒップホップを加えたようなブラック音楽になっています。昔の「Dig Your Own Hole」で見られたゴリゴリの重低音サウンドは少ない印象ですね。

また、ケミカル・ブラザーズは初期の頃からさまざまなミュージシャンとコラボしてきました。オアシスのノエル・ギャラガーはその代表格ですが、その後のアルバムでも多くのミュージシャンが参加しています。このアルバムでは、シャーラタンズのボーカル、ティム・バージェスが参加した「The Boxer」などが有名です。

その後もベスト盤などを挟んでアルバムをリリースし、独自の路線を進みます。アルバム「Further」は、ケミカル・ブラザーズのアルバムの中でも最高傑作となっています。ただ、ロックファンが楽しめるような楽曲は少なく、ロックとダンスの融合感が新たな領域の音楽を生み出しているのです。

EDMはどれも同じに聞こえる?

2015年にアルバム「Born in the Echoes」がリリースされた時代は、EDMが音楽界を席巻していました。その中でリリースされた大御所テクノユニットである彼らのアルバムは、EDMに流されることなくロックとダンスの黄金比率で挑みました。またこのアルバムには、現在もロック界で活躍しているベックやセイント・ヴィンセントなどが参加しています。

また、ケミカル・ブラザーズはEDMに対して「どれも同じ曲に聞こえる」と口にしています。曲の感じが全部似ていて、祝祭的なアゲアゲミュージックなだけだと。

ケミカル・ブラザーズの最初のサウンドは、ベースや生ドラムのサンプリングを使用していました。ケミカル・ブラザーズの音楽のかっこいいところは、ボタン1つのサウンドではないところなのです。

だからこそケミカル・ブラザーズの音楽は、立体的な音楽になっているのだと思います。奥行きすら感じる深みの強い音楽です。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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