攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX:その魅力はどこにあるか

「攻殻機動隊 S.A.C.」は士郎正宗原作によるSFアニメである。電脳化が一般化された高度な情報ネットワーク社会を舞台に、完璧なるSFの世界を描ききった本作は「東京国際アニメフェア2003 公募・アニメ作品部門優秀作品賞」を受賞し、日本のみならず世界的にも高く評価されている。
SFアニメの金字塔と言っても過言ではない本作の魅力は、作り込まれた完璧な世界観だけではない。本作の魅力の正体とは一体なんなのだろうか。

■あらすじ

脳の電子化、いわゆる電脳化が一般的になり高度な情報ネットワーク社会と化した日本では、犯罪もより複雑で悪質なものへ進化していた。主人公の草薙素子を筆頭にした公安9課と呼ばれる組織はその抑止力として活躍し、サイバー犯罪の捜査やテロリストたちの検挙、組織や警視庁の中で蔓延する汚職事件を摘発していくのであった。そうして日々の任務を遂行していく中で、公安9課のメンバーはある1つの事件に出会う。それは「笑い男」と呼ばれる者が企てたサイバーテロ。公安9課のメンバーはその事件の実態と犯人に迫っていくのだが…。

■1つの物語と1つの物語が交差するとき

本作の大きな特徴は、物語が大きく2つの側面に分けられることだ。
1つは公安9課の通常の捜査や任務、彼らの日常や過去に焦点を当てた1話完結の話。もう1つは「笑い男事件」の話である。どちらも公安9課の面々が活躍するが、それぞれは独立した話だ。笑い男事件が物語の主軸となり、それとは別で日々の任務が描かれる。

この構成を用いることで、物語を途中から見ても楽しむことができるのだ。
多くの人は超大作よりも1話完結型の物語の方がとっつきやすさを感じるだろうし、見たい作品でも長く継続をしているものだと、物語に追いつけないからといって視聴を諦めてしまうこともあるだろう。しかし、途中から見るあるいは途中を見逃しても話について行きやすい本作は、気軽に見始めることができるのだ。
でも連続視聴にとっては、毎回1話完結の話のみだと飽きを感じてしまうはずだ。そこで、単調に続いてゆくかと思われる流れの中に大きな事件を潜ませ、不穏な空気を醸し出す役割を担っているのが「笑い男事件」だ。1話で完結する話の中に少しずつこの事件が絡んでくることで、徐々に事件の全容が明らかになっていく。

そして、その2つの物語が交わったときが本作の最大の見どころだ。
物語が後半に入ってからだんだんと笑い男事件が主軸になってくるが、注意して見ていると、前半にも小さなヒントが描かれているのがわかる。前半の、素通りしてしまうようなエピソードに事件の片鱗が紛れ込んでいたのだ。

そしてようやく笑い男事件がはっきりと描かれたとき、この物語はそれまでと全く違ったものに見える。
それまではただ公安9課が繰り広げる日常的な物語のようにも見えていたかもしれないが、ここでそうではないことに気づかされる。公安9課の面々がどのようにこの事件に立ち向かってゆくのか。それまでの物語とこれからの物語のつなぎ目が露呈し過去と未来が一直線上に重なったとき、多くの視聴者が胸の高鳴り、バラバラのピースがカッチリ嵌るような気持ちよさを感じたことだろう。

■登場人物たちの渋さ

本作は2002年に放送開始され、当時は深夜アニメという存在がまだそれほど世に浸透していなかったのにも関わらず、幅広い年齢や普段あまりアニメを見ない層の人々にも支持された。その当時はまだ、深夜アニメは一部のアニメ好きだけが見るものであり、深夜にアニメが放送されていることすら知らない人も多かったのではないだろうか。

それにもかかわらず本作は驚異的なヒット作となった。さらには海外でも人気を集め、放送から15年以上経つ現在でもその人気は衰えることを知らない。

なぜここまで幅広い層に愛されたのか、その理由は登場人物の魅力にあるのではないだろうか。本作の主要なメンバーである公安9課は、果たしてどんな魅了のある人たちなのだろうか。また、本作に登場する女性は主人公の草薙素子のみで、ほかの登場人物はおじさんばかりである。

まず物語の中でも多く登場するバトーとトグサから紹介する。
バトーは屈強な体躯をしていて、白髪を1つ結びにしている。ほぼ全身を義体化しているサイボーグ人間で、特別な義眼レンズを付けているためこのような面持ちになっている。草薙素子から「脳みそまで筋肉にならないように」と言われるほどに鍛えこまれた身体、精神面でも非常にハードボイルドな男だ。また扱う武器には拘りがあり、いかにも男の中の男、といった印象だ。
対してトグサは元警視庁に在籍していた刑事で、電脳化も施しておらず、新人という立場から青臭いなどと言われているが、正義感と人情味のある性格から周囲からとても高く評価されている。電脳化や義体化した人物の心理を上手く掴めず、任務では空周ってしまうこともしばしばだったが、実直さが功を奏し事件の真相を掴んで行った。
この2人は露出回数が多く、草薙素子と行動を共にすることもよくある、公安9課の代表的メンバーである。2人は正反対の性格だが、おじさん特有の余裕のある精神や立ち回りが見て取れる渋さを備えている。バトーはワイルドな渋さ、トグサは落ち着きはらった渋さがあり、真逆なのに同じ雰囲気を醸しているところがいい。

他の公安9課のメンバーにも注目してみよう。
物語ではあまり強くクローズアップされなかったが、そのほかの公安9課メンバー、パズ、ボーマ、イシカワ、サイトーはとても手強い人たちだ。
この4人は表舞台には登場せず、基本的に前線を動く草薙素子、バトー、トグサのバックアップを務めることが多い。そのため彼らの活躍に派手さはないが、彼らの天才的な能力がなければ任務遂行は有り得ない。
パズは任侠のような見た目をした無口な愛煙家。得意なことは内定調査や聞き込みだが、ナイフを使った格闘術にも優れているため、ときには前衛に出ることもある。
ボーマは特徴的な目を持ったスキンヘッドの大柄な男。電脳戦が得意で、相手の脳を乗っ取り敵を蹴散らす。また、裏で活動しているときはあらゆる情報収集に従事している。
これを一緒に行うのがイシカワで、彼は電脳戦のスペシャリスト。立派な髭が特徴で、表舞台には全くと言っていい程登場しないが、彼なくしてこのネットワーク社会に蔓延るサイバー犯罪の摘発は有り得ない。
サイトーは片目に眼帯をした男。狙撃のプロフェッショナルで、基本的には前線とは離れた所から援護射撃を行う際に人工衛星と交信して狙撃に必要な情報を得る。
といった具合に、4人は裏方の活動で任務に携わっている。しかし4人とも、特色は異なる渋さを持っている。全員ある程度の年齢だから口数が少なめなのだろうか、漂う渋さが大人心にグッとくるのだ。派手なことをしなくても、登場回数は決して多くないがこの4人は男が憧れる男だ。

最後に公安9課の課長、荒巻についても触れておく。
彼は一見、かなりの老人であるにも関わらず貫禄と威厳のある立ち居振る舞いで公安9課の長を務めている。手練れの職員ばかりの課をまとめ、老人ならではの渋さが滲み出る姿は言うまでもなく格好良い。

本作は登場人物たちの渋さだけでなく、物語全体もスタイリッシュで洗練されたものである。いずれにせよ、男性から格好良いと思われる男性がたくさん登場することも、本作があらゆる世代に支持されている理由のひとつであろう。

■完璧なるSFの世界観

本作の圧倒的に完成された世界観、この特徴について触れないわけにはいなない。

これまでにも述べてきたように、放送開始当時は今ほどアニメが世間に受け入れられていなかった時代だった。そこに、アニメ好きでも見る人を選ぶようなSFの作新で飛び込んでいったのにもかかわらずヒットした本作。なぜこんなにも多くの人の心を鷲掴みにしたのか。その答えは「世界観」という言葉がぴったりかもしれない。

例えば設定が作りこまれていることや、情報社会の犯罪体系を圧倒的スケールで描いていること、細かな演出や美しい背景など様々な要素が考えられる。1つの結論を導くことは非常に難しいが、言うなれば「全て」であり、どの点においても圧倒的に完成度が高い。

SFの作品において、視聴者を惹き付ける作品かそうでないかの違いは世界観にある。世界観が粗雑なものであっては人を惹き付けられない。そこにしかない世界が確立していることが重要であるため、本作は文句なしの出来である。
また、物語のスケールが大きければ大きいほど人々は魅力を感じやすい。世界的にヒットしたSF映画などに宇宙を舞台にしたものが多いのも、同じ理屈だろう。本作は宇宙規模を舞台にしたものではないが、スケールは大きく感じられる。

■さいごに

この世にはどれだけの数のSFアニメがあるだろうか。それらの多くはが独自の世界や登場する人物たちの友情や激闘を描く。しかし本作はそれらの要素をなるべく排除したハードボイルドなSFに徹した。純度の高い1つの点に特化しつつも複雑な要素を孕んでいる、それが本作の魅力を端的に表す言葉かもしれない。

色々な視点から考察しても語り尽くせない本作の魅力を、是非多くの人に体験してほしい。世代も性別も国境も越えあらゆる層から受け入れられ、放送終了後も冷めやらぬ熱を保ち続けた、たった26話の中に集約された世界観は私たちを物語の中に没入させる強大なパワーを持っている。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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