エリック・カール:子どもたちに驚きを与え、学ぶ楽しさと想像力を育む絵本作家

エリック・カール(1929-2021)はアメリカの絵本作家です。ニューヨークに生まれドイツで育ち、シュツットガルトの美術アカデミー学校を卒業後、アメリカに戻りグラフィックデザイナーとして活躍します。コラージュ手法の先駆者で、ニスを下塗りした薄紙に指や筆で色を付けた色紙を切抜いて作る絵は、赤ちゃんでも識別できる色鮮やかな色彩で構成されていることが特徴です。彼の代表作である「はらぺこあおむし」は70ヶ国以上の原語に翻訳され出版部数は5500万部を超えました。

子どもにとっての大切な友達との別れ

エリック・カールが自身の幼少期の経験をモデルに制作した作品「いちばんのなかよしさん(英題「Friends」)。カールは幼少期に仲良くしていた女の子の友達がいましたが、彼は6歳のときにドイツに移住することになったため、離れ離れになってしまいます。それからその子と再会することはありませんでしたが、カールは心のどこかでずっとその子のことが気になっていました。
この絵本の中には、読者の子どもたちがまだ知らない世界が広がっていきます。主人公の男の子の気持ちになって、あの子にまた会いたい、どこにいるんだろうと不安になったり、会ったら何をしようかなと思ったり考えたりすることで、子どもたちの思考力や想像力を養います。

しかけ絵本

カールは1968年に絵本「1、2、3どうぶつえんへ」を発表し、ボローニャ国際児童図書店グラフィック対象を受賞しました。そして「はらぺこあおむし」で一躍有名になり、世界中で楽しまれる絵本作家となります。彼の代表作には他にも「くまさん くまさん なにみてるの?」「パパ、お月さまとって!」などがあります。

エリック・カールの代表作であり、世界中の幼稚園や保育園に必ずある絵本「はらぺこあおむし」は1976年に発表されました。そのストーリーは暖かい日曜日の朝、卵から生まれたあおむしが、りんごや洋ナシ、ピザなどの食べ物を次々に食べながらだんだんと成長し、ついには美しい蝶になるというものです。カールはまず子どもが好きな食べ物が登場させ、それらを大きく描き子どもたちの興味を集め、食べ物を食べるあおむしの様子を”ぱくぱく”や、”もぐもぐ”といったリズミカルな音でユーモラスに表現しています。またこの絵本はしかけ絵本となっていて、あおむしが実際にその食べ物を食べたかのように絵本のページに穴があけられています。
この絵本が発売された当時、話を読むだけでなく絵本に指で触って楽しめる「はらぺこあおむし」のアイディアは画期的でした。しかし、しかけ絵本はその細工のために余計に費用がかかる上に、絵本自体もヒットするかどうかが読みにくいジャンルのため企画の段階では実現できるかどうか際どい作品でした。
そこで日本の出版社、偕成社が名乗りを上げます。日本で印刷や加工、製本をしたことで、この絵本はまずは日本で有名になりました。

「1、2、3どうぶつえんへ」は動物たちが汽車で動物園に向かうお話です。文章はなく、数字とゾウやキリンやカバなどの動物たちが登場します。また、「かずのほん」という副題どおり、読み進める中で声を出しながら楽しく数字を学ぶこともできます。

「パパ、お月さまとって!」は、娘のために父親が大きなハシゴでお月さまをとりに出かけるお話です。しかし、お月さまは大きすぎて持ち帰ることが出来ません。それでもお月さまと娘のモニカが遊べるように、父親はいろいろなアイディアを考えてくれます。大きなハシゴが月まで伸びていくシーンでは、絵本のページが拡張するしかけが施されていて子どもたちを驚かせます。

絵本美術館

アメリカには絵本専門の美術館がありませんでした。しかしカールは、来日した際に訪れた絵本美術館に感銘を受け、アメリカにも絵本美術の拠点となるような美術館が必要だと感じ、エリック・カール絵本美術館を創設しました。ここでは彼の作品だけでなく国内外の優れた絵本の原画を幅広く収集し、絵本に関する様々な展覧会や企画展を実施しています。

The Eric Carle Museum of Picture Book Art
マサチューセッツ州アマースト01002
ウェストベイロード125
413-559-6300

木・金曜日:午前10時~午後4時
土曜日:午前10時~午後5時
日曜日:午後0時~午後5時
月・火・水曜日は休館となります。
Carle Museum (※2021年6月現在)

レオ・レオニとエリック・カール

カールは第二次世界大戦でドイツ軍として徴兵され、ソビエト軍の捕虜となった際にとても過酷な経験をしたことから、世界平和を切望していました。そのためカールの絵本には、子どもたちの感受性を豊かにするための仕組みがたくさん組み込まれています。感受性の豊かな人間を育てることは、酷いことのできない人間を育てることと密接に関係しているからです。

「スイミー」などで有名な元グラフィックデザイナーの絵本作家、レオ・レオニも絵本の文章の様式とビジュアルの組み合わせを大切にし、抽象的な表現で子どもたちの想像力を引き出す工夫をこらしていました。カールとエリックは古くから親交があり、カールがアメリカに来たばかりの頃はエリックが生活の援助をしてくれていました。カールもレオ・レオニもコラージュの手法を用いて絵本を制作していますが、どちらもダイナミックにモチーフを描くことで子どもたちや読者の心を掴み、子どもたちの驚きや高揚という感情を引き出し楽しい気分にさせてくれます。
 
エリック・カールは子どもの心についてや、子どもにとっての絵本の役割というものを常に考え、楽しみながら平和に生きる力を育むという姿勢を貫き続けました。そして2021年5月に生涯の幕を閉じました。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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