テスラ : 過去から未来のビジョンを訪ねる

テスラは、2003年にアメリカのシリコンバレーに本拠地を構えたばかりの自動車メーカーです。テスラと従来の自動車メーカーの明確な違いは、創るクルマがすべて電気自動車であるということです。

シリコンバレーは地名ではなく、カリフォルニア州のサンタクララバレーとその周辺の広範囲な地域の通称です。シリコンバレーという名前の由来は、多くの半導体メーカーが集まっていたことと、渓谷の地形であることからきていて、アップル、Google、Facebook、Yahoo、アドビシステムズ、インテルなど数々の大手IT企業が本社を構えています。
テスラは自動車メーカーでありながらIT企業をイメージさせるような異質さのある、無限の可能性を持った企業です。そんなテスラのこれまでの道のりを振り返ると同時に、テスラがデザインする未来を探っていきましょう。

テスラの誕生とその歩み、テスラの創業者

2003年に、シリコンバレーのEV(Electric Vehicle、電気自動車)ベンチャーとしてスタートしたのがテスラモーターズです。マーティン・エバーハードとマーク・ターペニングという人物がこの会社を設立しました。
彼らはテスラ以前にNuvoMedia社という会社を設立していて、電子書籍装置のシステムとそれを具現化した商品、「Rocket eBook」の開発を成功に導いた実績があります。

彼らは「Rocket eBook」の開発プロセスで、リチウムイオンバッテリの将来性や優位性に気付きました。リチウムイオンバッテリについて、マーティンが次のように述べています。

  • 他の電池と比較してエネルギー密度が高く、電池に投入したエネルギーに対して回収できるエネルギーとの比であるエネルギー効率が95%と良好で、EVの駆動用バッテリとしての適性は他の選択肢を大きく凌ぐ。
  • 原料である金属元素のリチウムはほぼ無限といえるほど豊富に埋蔵されていて、安価である。最もコストがかかるのは、電池の正極材として利用されるコバルトであるが、ニッケル系・マンガン系・リン酸鉄系などの代替素材の開発が進んでいる。
  • 寿命が尽きた後、含有される資源であるコバルト、ニッケル等のレアメタルや銅、アルミ等のベースメタルのリサイクルが可能である。

マーティンとマークは、2000年3月にNuvoMedia社を1億8700万ドルでTV Guide社へ売却し、次に彼らが選択した仕事がクルマ創りでした。これが、テスラの創業です。

テスラのルーツ

テスラの社名の由来はセルビアの電気技師であり物理学者でもあった、ニコラ・テスラ氏からきています。

ここで少し寄り道をして、ニコラ・テスラの人となりをご紹介します。
ニコラ・テスラはトーマス・エジソンが経営するエジソン電灯の社員でした。しかし、エジソンとの確執が生じて退社、自ら「テスラ電灯社」を設立します。
当時の電気事業の主流は直流送電による電気供給システムでしたが、テスラ電灯社では、交流送電による電気供給事業を開始しました。エジソンは直流にこだわりましたが、現在の家庭への電気供給システムの大半は交流です。テスラは発明王エジソンを交流システムで震撼させたのです。また、磁束密度の単位にも「テスラ」の名が残されています。

このようにニコラ・テスラは偉大な業績を残しました。
電気自動車のみを製造し販売する新しいスタイルの自動車会社にとっては、まさにうってつけの名前なのではないでしょうか。

世俗的な事柄にうとく、コミュニケーションが苦手で孤立することも多かったニコラ・テスラですが、唯一の理解者がいました。それは、 「トム・ソーヤー」 や 「ハックルベリー・フィン」 などを執筆した、アメリカの人気作家マーク・トウェインです。彼は親しみを込めてニコラ・テスラを 「稲妻博士」 と呼んでいたそうです。科学者と文学者の畑違いの二人の関係性は、実に興味深いです。

電気自動車に特化したクルマ造り

マーティンは、電気自動車に特化したクルマ造りを初めた理由を次のように語っています。

  • 地球温暖化の進行を遅らせたい。
  • アメリカの石油消費量の内訳は、その50%以上が自動車の燃料としての用途である。
  • 今の状況に皆が困惑している。この問題の解決を進展させるためには、持続可能なエネルギーへ転換すべきだ。

持続可能性という言葉は、今ではもう使い尽くされてきました。道半ばのエネルギー問題の画期的な解決策が生み出されることを願うばかりです。

イーロン・マスクの登場

テスラモーターズの現CEOであるイーロン・マスクはエンジェル投資家(創業間もない企業に対して資金を供給する個人のこと)として創業翌年の2004年から筆頭株主として経営に参画しました。
テスラを創業した直後、シリコンバレーのベンチャー企業投資家たちに電気自動車を製造する構想を話しても、誰もまともに聞いてくれはしませんでした。しかし、そんな状況でイーロンだけが出資をするという判断をしてくれたのです。
イーロンはその時点でエンジェル投資家としてシリコンバレーで名が知れ渡っているだけでなく、ロケット打ち上げのための企業も興していたりして、まさに一般の人々の想像力の遥か上をいく人物でした。

イーロン・マスクがテスラのCEOに就任したのは、今から10年前の2008年のことです。
その周辺の彼の歩みを整理します。

  • 1999年、インターネット利用の決済サービスを提供するX.com社を共同設立。
  • 2000年3月、PayPalを発表したインターネット企業、コンフィニティ社とX.com社が合併。
  • 2001年、この合併企業をPayPal社とする。
  • 2002年、PayPalはeBayに買収されその子会社となる。

ロードスター

2008年、スポーツカータイプEV、 「テスラ ロードスター」 を最初のモデルとして発売開始。
高価格でありながら、数多くの著名人からの予約注文が殺到しました。イギリスの名車ロータスヨーロッパをベースに製作されて、発進から100キロメートル/毎時に到達するまでの時間は3.9秒、加速性能と満充電で378キロメートルの航続距離を誇り、売上台数は2400台を超えました。

モデルS

2012年、2台目の市販車としてプレミアムEVセダンの「モデルS」を発売しました。モデルSのバッテリは、ノートパソコンや電気自転車の電源としても使用されている、単3乾電池をひと回り大きくしたような形状の、汎用性の高いリチウムイオンバッテリです。
汎用性の高いバッテリを使用することで安全面に割くコストを抑えることができ、これを数千個搭載すれば85キロワットアワーの大容量が実現されるのです。
この数値はテスラ車以外のEV 31台の平均値と比較すると約6.5倍にもなり、EVの弱点であった航続距離を約500キロメートルまで飛躍させて、EVを現実的な選択肢としました。
さらに7人まで乗車可能で、発進から100キロメートル/毎時に至るまでの時間が5.6秒の加速性能は、ファミリーユースのセダンの特性とスポーツカー並みのスペックが両立されています。
また、各種装置の操作はインパネ中央に設置されているセンターディスプレイ「タッチスクリーン」 で行うことができます。
タッチスクリーンは17インチのタブレット端末大の液晶パネルで、オーディオソースや空調の切り換え、インターネットへの接続によるグーグルマップでの検索、ハンズフリー通話、エネルギー効率の確認やコントロール操作などが可能です。

自動車のシステムを説明する言葉にカーインフォテイメントという造語があります。これはインフォメーション (情報) とエンターテインメント (娯楽) の二つの言葉を組み合わせたものです。この場合インフォメーションはナビゲーションシステムにおける経路案内や安全運転支援システム、道路交通情報表示が該当し、エンターテインメントはオーディオ機能としてのAM/FM/TVチューナやDVDなどを指します。
とても便利なこのセンターディスプレイは、これからのカーインフォテイメントのありかたを先取りしたデバイスといえるでしょう。

モデルXとモデル3

2015年にクロスオーバー車(舗装された道での性能を重視した車種)の 「モデルX」 が発表され、2016年には手の届きやすい価格の「モデル3」 が市場に投入されました。共にEVの大衆化に向かって大きく舵をとるために開発されたクルマです。
モデルXはフロア下部にバッテリを搭載することで車両の重心を下げ、横転するリスクを大幅に低減し、何よりも安全性を重視することが開発のコンセプトでした。
モデル3はフロントグリルがない斬新なエクステリアのデザインですが、そもそもグリルというものはガソリンエンジン車がエンジンまわりの冷却のために採用している機能であって、EVには必要ないのです。EVならではのより合理的なデザインを採用したのですね。

EVトラック 「セミ」

現在開発中の新型モデルである、EVトラック 「テスラ セミ」 は2021年には納車が開始される予定です。
「セミ」 とはセミトラック (セミトレーラー) のことで、貨物を積載したトラクターを連結装置によってけん引するトラックです。
セミは、運転席をキャビンの中央に配置し、視界が最大となるよう適正化して事故防止を図っています。
スイッチ類がほとんど取り除かれ、操作は基本的に全てタッチスクリーンで行うところは乗用車のテスラモデルと同じですが、セミは左右に2台のスクリーンが装備されています。
走行性能については約97キロメートル/毎時で、加速が5秒というとてつもない数値を叩き出し、ディーゼルトラックよりも10秒も早く加速することが可能です。航続距離も最大約800キロメートルと、性能はガソリン車に全く劣りません。

ネット店舗の売上が小売業全体の売上に占める割合をEC化率と呼びますが、アメリカのEC化率は14.5%(2020年)に達する見込みであり、今後益々リアル店舗に取って代わることでしょう。そうなるとこれまで以上に物流が重要になり、エネルギー効率のいい「テスラ セミ」 に注目が集まることは必至です。ウォルマートなどの大手企業がすでにセミを大量に発注しているようで、インフラまでも電動化しようと試みているテスラが運送業界を変えるのかもしれません。

エネルギー・カンパニー

未来へのビジョンを提示すること、それが現在のテスラの企業活動です。テスラの目指す場所は「エネルギー・カンパニー」 であり単にEV車を生産するだけでなく、クルマに供給するエネルギー自体を生産するフルサービス提供企業となることが目標なのでしょう。
このままエネルギーを消費し続けるのみでは、世界の持続は不可能です。2016年11月、テスラが太陽光発電会社ソーラーシティを買収したときに、イーロン・マスクはこう語っています。

“我々は持続可能エネルギーの企業だ。今回の決断はおおよそこの路線に沿ったものだ。持続可能エネルギーの問題を解決するには、生産、貯蔵、電気自動車が必要だ”

出典:(youtube、参考) The mind behind Tesla, SpaceX, SolarCity … | Elon Musk

アイデアを具現化するためにはどのようなことをすべきなのでしょうか。それを考えていく過程に技術革新の糸口があるのは、言うまでもありません。

この記事ではテスラの経営理念のほんの一部をご紹介したまでではありますが、皆さんが人類のより良い未来を想像していただくきっかけになれば幸いです。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧