21世紀の航空界は、世界の大都市の第2、第3空港も人の流れのハブになる

ニューヨーク・マッカーサー空港、ロンドン・サウスエンド空港、パリ・ボーヴェ空港…「そんな空港、知らない」と言うようでは21世紀の航空界に乗り遅れ、搭乗ゲートに取り残されてしまう。今や、世界の大都市の第2・第3空港でさえも、増える一方の航空利用者の国境を越える流れのハブになる時代がやってきた。就航するのは主にLCC(格安航空会社)が飛ばす低燃費の中・小型機。客層も、運賃も、サービスも、パイロットやCA(キャビンアテンダント)の待遇も、長距離バスや鉄道のような「大衆のための乗り物」に近づいている。

世界の大都市の第2、第3空港の利用者増加

ニューヨーク中心部のペンシルベニア駅からロングアイランド鉄道で東へ約90分。ロンコンコマ駅の近くにロングアイランド・マッカーサー空港がある。第二次世界大戦の名将の名がついたこの空港の年間利用者は85万人(FAA:Federal Aviation Administration)。アメリカの代表的LCCのサウスウエスト航空が2004年にニューヨークの拠点空港とし、整備・拡張が進むにつれて利用者が増加した。国内線専用で東部の中・短距離便が中心だが、特にフロリダ半島方面への便数は多く、ニューヨーカーの間では「フロリダに行くならマッカーサー空港」という意識が浸透している。
ロンドンの東、エセックス州にあるサウスエンド空港は、ロンドン中心部のリバプールストリート駅から近郊電車で53分。2012年のロンドン五輪の観客輸送のために拡張・整備され、英国の代表的LCCであるイージージェットが就航すると利用者が大きく増加した。年間利用者数は148万人(CAA:UK Civil Aviation Authority)。英国国内線だけでなく、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、スペインや東欧諸国などヨーロッパ各国への中距離便がある国際空港である。
パリから北へ約85キロ。オワーズ県にあるボーヴェ空港は、鉄道ではアクセスできず、公共の交通機関はパリの象徴の凱旋門と副都心デファンス地区の間にあるマイヨー門を起点に発着するシャトルバスのみ。75分かかるが、年間利用者数は364万人(AIP:Aeronautical Information Publication )もいる。利用者の増加も空港施設の拡張・整備も、アイルランドのLCCであるライアン・エアが1997年に就航すると同時に始まった。中距離便中心の国際空港で、アイルランド、スペイン、ポルトガル、イタリア、東欧諸国、さらにアフリカ大陸のモロッコにも就航している。

この他、シカゴのミッドウェー空港(サウスウエスト・エアライン)、フランクフルトのハーン空港(ライアン・エア)、ローマのチャンピーノ空港(イージージェット、ライアン・エア)のように、LCC就航後に利用者数が増加し知名度が上がった大都市第2・第3空港がある。
日本では2010年に首都圏第3空港である茨城空港が開業したが、LCCの多くはむしろ既設の国際空港のほうに就航する。成田空港第3ターミナル(2015年)、関西空港第2ターミナル(2017年)とLCC専用の新ターミナルが開設され、そこが他の国の大都市における第2・第3空港の役割を果たしている。

なお、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港やニューアーク・リバティー国際空港、ロンドンのヒースロー空港やガトウィク空港、東京の羽田空港のような「大都市第1空港」の利用者は、第2・第3空港におされて減っているわけではなく増え続けている。
IATA(国際航空運送協会)の「世界航空統計」によると、21世紀に入って世界の航空利用者数はほぼ右肩上がりで伸び続け、2017年は41億人で2001年の16.4億人の2.5倍に増大した。第1空港と第2・第3空港はパイを食いあっているのではなく、成長・拡大するパイを分けあって、一緒に大きくなっているのだ。
ただし、そこに就航する航空会社や利用客層は明らかな違いがあり、航空界の「21世紀型」の新勢力の出現を感じさせる。

・これが世界の航空界の「21世紀型」新勢力

航空界の「21世紀型」モデルとは、いったいどんなものなのか?従来のモデルを「20世紀型」と名付けて対比させると、次のようになるだろう。
20世紀型の特徴として、航空会社はその国を代表するナショナルフラッグキャリアが基本であり、旅客機は大手メーカーの生産する大型機であることや、機内食などのサービスが運賃に含まれていること、その他にもファースト、ビジネス、エコノミーに分かれた3クラス制などが上げられる。ここで働くパイロットやCAは花形の職業であり、彼らは高級取りであった。またターゲットとされるのは中産階級以上の人々だった。
それに対し21世紀型では少々様子が変わってくる。21世紀型ではLCC(格安航空会社)も一般的になり、そこでは中国やブラジルのメーカーが生産する中・小型の機体が使用されており、運賃が抑えられている分サービスには追加料金がかかり、シートは基本的にエコノミーのみとなっている。パイロットやCAの給与も一般的な水準であり、全ての所得階層をターゲットにしている。
航空関係者には異論もあるだろう。たとえば2018年にはボンバルディアにエアバス、エンブライエルにボーイングが出資するというニュースが伝えられた。ニューヨークのラガーディア空港やパリのオルリー空港は、旧来のナショナル・フラッグ・キャリアもLCCも両方就航している。LCCの営業方針も各社それぞれでバリエーションがある。

「乗り物の大衆化」が今、遅れて始まった

それでも、21世紀の航空界の方向性については航空関係者との間で共通理解があるはずだ。それは世界の航空利用者数が17年で2.5倍になるパイの拡大とともに、旅客機の「大衆化」がよりいっそう進んでいくという流れである。国内線でも国際線でも、旅客機は「大衆のための乗り物」に近づいている。それはアメリカの「グレイハウンドバス」のような長距離バスや、新幹線などの高速列車ではない在来線が、たどってきた道でもある。
現在の夜行のグレイハウンドバスには、1920年代のようなビジネスパーソンの姿はまず見られない。当時と比べると、運賃の物価水準比の実質価格は大幅に下がった。
現在のヨーロッパの鉄道駅には王侯貴族専用の豪華な待合室はほとんど残っていない。もしあっても、それは観光客に見せる「古き良き時代」の遺産である。かつてあった列車の「1等車」「2等車」「3等車」の3クラス制は第一次世界大戦、第二次世界大戦の激動を経て2クラス制に移行し、高速列車でなければ2等だけの列車も多くなった。客船もまた同様である。
鉄道や船から遅れてようやく21世紀、LCCの登場により旅客機が同じ道をたどろうとしている。それは裏を返せば、航空界は20世紀の後半までかつてのヨーロッパの階級社会を引きずっていたわけで、ようやく「大衆化」の時代に本格的に突入したところだ。

複数の空港が多様性をみせる都市は魅力的だ

全世界からの国際線を集める大都市の第1空港は外交使節や業務出張者を迎える「フォーマルな玄関」になり、第2・第3空港は遊びに来た人、遊びに行く人が交差する「カジュアルな玄関」になる。それもまた「21世紀型」である。国境を越えるような人の流れの「ハブ」が都市周辺に複数できる。
ニューヨークのマッカーサー空港にはフロリダへ遊びに行く若者が集まり、ロンドンのサウスエンド空港やパリのボーヴェ空港では、ヨーロッパ各地から訪れた観光客がパスポート・コントロールを通過していく。同一人物が目的別に、ビジネスシーンとプライベートシーンでそれぞれエアラインを使い分け、フォーマルな玄関とカジュアルな玄関を使い分けることもあるだろう。カジュアルならカジュアルなりに飲食やエンタテインメントやスポーツの施設を充実させるなど、ビジネスチャンスも生まれるはずだ。
郊外にアクセス拠点の空港が複数あり、それぞれ独自性があるということは、その都市の生活に多様性があるということだ。都市は、さまざまな顔を持ち多面的であればあるほど、よりいっそうその魅力が増し、より多くの人をひきつけられるようになる。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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