オルヴァル:黄金の谷で作られるトラピストビール

明るい琥珀色に白い泡。オルヴァルの個性的な味わいは、ベルギービール好きならきっと味わったことがあるはず。オルヴァルは、世界で12銘柄しか認定されていないトラピストビールの一種であり、マチルドの泉伝説が残る場所でもある。

なぜオルヴァルという名前がついたのか。その長い歴史、こだわりの製法、美味しい飲み方などオルヴァルのすべてを探ってみよう。

ベルギー南部、緑深い国境のまちで生まれたビール

オルヴァルはベルギー南部ワロン地方リュクサンブール、アルデンヌの森に囲まれた自然豊かなオルヴァルという町でつくられている。町の名前も修道院の名前もオルヴァル、そのままビールの名前になったというわけだ。
町には電車が通っていないので、車での訪問をおすすめしたい。道の途中に広がるアルデンヌの森や田園風景、古城跡などに、きっと心を奪われることだろう。

目的地であるオルヴァル修道院の近くには、中世の時代に使っていた修道院の跡が遺跡として残っているので、ぜひこちらも立ち寄ってみてほしい。緑深い森を背景に佇む、朽ちた修道院跡はなかなか風情がある。天井はほとんど残っていないものの、柱や梁、壁などからは、当時の面影を見てとることができる。天気のよい日には、小鳥の声なども聞こえてきて散策にはぴったりだ。

廃墟の中に足を進めると、有名な「マチルドの泉」が見えてくる。とても小さな泉だが、オルヴァル誕生のきっかけとなった場所でもある。

オルヴァル誕生秘話「マチルダの泉」伝説とは?

1706年、イタリア・トスカーナ地方の伯爵夫人マチルド・トスカニーがこの地を訪れた。

夫人はこの地を散策しているとき、泉に亡き夫と交わした結婚指輪を落としてしまったという。指輪はどんなに探しても見つからなかった。悲しんだ夫人は祈祷所に足を運び、聖母マリアに「もし指輪がかえってきたら、この地に修道院を建てることをお約束します」と祈った。

その後泉に戻ると、大切な指輪をくわえた一匹のマスが現れ、夫人の手に戻してくれたという。そのとき、マチルド・トスカーナ伯爵夫人が「Truly this place is a Val d’Or !(本当にここは黄金の谷です!)」と叫んだ。フランス語でOrval=Val(谷)d‘(の)Or(黄金)。ここからこの一帯はOrvalと呼ばれるようになった、といわれている。

この一帯はなだらかな谷となっていて、谷の底にあるのがオルヴァルの町。周囲は森に囲まれ、清冽な水が湧き出る環境が整っている。やがて、オルヴァルのビールもこの泉の水を使って作られるようになった。

オルヴァルの王冠とラベルには、黄金の泉と指輪をくわえたマスの絵が描かれている。これは今でもオルヴァルは、この泉の湧き水を使って製造されているという証でもある。

オルヴァル修道院苦難の歴史とビール醸造

オルヴァル修道院の歴史は1070年にはじまる(諸説あり)。イタリア南部から修道士たちがやってきて、土地の開拓をはじめたという。しかし1110年頃突然修道士たちが立ち去ってしまったため、修道院の建設は道半ばに。修道院の建設を引き継いだのがカノン派のコミュニティ、彼らの手によってオルヴァル修道院は1124年に完成した。

その後まもなくして修道院は経済的な困難に陥り、シトー修道会に救いを求め、7人の修道士たちがやってきた。1200年に新しい教会が完成、修道士たちは森林を開拓、農園や酪農の経営などもおこなったという。

17世紀になるとオルヴァル修道院は自立し、生産したものを近隣に分けあえるほどに充実。1628年に出された書物によると、この頃にはビールとワインの製造方法が確立していたようだ。

しかし、再び修道院は苦難の道に立たされる。1637年、修道院は30年戦争の軍隊によって破壊されてしまう。さらに1789年フランス革命が起こり、オルヴァルの所有財産はすべて没収され、数年後には革命軍によって修道院は焼き払われ、解散させられてしまった。その後1世紀以上に渡り、オルヴァル修道院は野ざらしのままであったそうだ。

オルヴァル修道院復活は20世紀に入ってからのこと。1926年、デ・ハーレン一族がオルヴァル周辺の土地をシトー修道会に提供し、フランスから修道士がやってきて修道院を再建した。

現在使われているオルヴァルの醸造所は1931年修道院の再建の際につくられたもの。昔の味わいはレシピが失われてしまったが、新たにトラピストらしく醸造期間の長い、上面発酵のビールとして再び誕生した。その売上の全ては修道院の維持と、慈善事業に当てられているのだという。

独自の製造方法を守り続けるオルヴァル

オルヴァルはトラピストビールの一種。トラピストビールとは、修道院内で製造され、製造の権限を修道士たちが持ち、その売上げを修道院で管理できるビールのことをいう。

オルヴァルの製造は修道士たちに管理され、今でも伝統的なビール製法でつくられている。ほかのビールとは違う独自の製造方法を紹介しよう。

ビールの原料は3種類のモルト、ホップ、そしてマチルダの泉からくみ上げられた水がメイン。オルヴァルではそのモルトを焙煎し、香ばしいカラメルモルトにして使うことで甘い香りと濃厚な味わいに仕上げている。

また、オルヴァルの味を個性的なものにしているのがドライホッピングという方法。これはモルトを煮るときではなく、発酵させるときにホップを加える製法のこと。これによりホップの香りが強く引き出され、味わい深いビールとなる。

このカラメルモルト、ドライホッピングという2つの方法によって、オルヴァルはほかでは真似できない味・香り・風味を生み出すことに成功したといえるだろう。

製造工場は修道院内にあるため一般公開されていないが、博物館でその様子を知ることができる。また、年1回だけだが工場の公開日もある。

修道院から出荷されたオルヴァルは、修道院近くのÀ L’Ange Gardienというブラッスリーで楽しむことができる。ここでは通常のオルヴァルのほか、修道院のもう一つの生産物であるチーズや非加熱の生のオルヴァルなども楽しめるので修道院を訪ねた方はぜひ立ち寄ってほしい。

オルヴァルの美味しい飲み方、ぴったりの料理は?

ベルギービールには必ず専用のグラスがあるが、オルヴァルにも聖杯型のオリジナルグラスがある。聖杯型のグラスというのはトラピストビールに多いのだが、これはキリスト教の儀式でワインを入れる聖杯を模した作りとなっている。

このグラスは口が広く、オルヴァルの甘い華やかな香りを楽しむのにぴったりだ。また重みもそれなりにあるため、6.2%という少し強めのアルコール度数を少しずつ楽しむのにも丁度いい。グラスはネットなどでも購入できるので、できるなら専用のグラスで味わってみて欲しい。

鮮やかな琥珀色、真っ白な泡が美しく、香りは果物のような甘い香り。ひと口飲むと、酸味・苦味、ホップの香りが口いっぱいに広がる。その中にもほんのりとした甘さもあり、力強い味わいと言えるだろう。適温は12〜14度と表記があり、春や秋なら常温で大丈夫。

そんなオルヴァルに合わせたいのは、やはりオルヴァルのチーズ。表面をビールで洗ったウォッシュタイプのチーズで、ビールのオルヴァルにも負けない濃厚な味わいだ。野菜にかけたり、パンに乗せてトーストしたりと、いろいろな調理法が楽しめる。また、現地ベルギーではシコン(ベルギーでのチコリの呼び名)のグラタン、フリッツ(フライドポテト)と一緒に食べている姿をよく見かける。

また、甘みが少ないビールなので、魚料理やバゲットサンドなどシンプルな料理とも意外に相性がよい。

おわりに

オルヴァルの歴史は、苦難続きだった修道院の歴史とともにあるといえる。近代のビールメーカーの製造方法はどこでも、誰がつくっても同じものになるようになっているが、オルヴァルの味はオルヴァルでしかつくれない。この地ならではの麦芽、ホップ、水、製造方法が肝心なのだ。これから100年先もずっと同じ味が楽しめればと願わずにいられない。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧