カンボジア:カンポットのアートスペース

カンポットはカンボジア南部に位置する海沿いの州。水や山に囲まれた自然豊かな環境に恵まれ、塩の生産や胡椒の栽培などで有名な、のどかなカントリータウンである。保養地としても親しまれ、国内外から多くの観光客が集まるが、最近ではその街並みや穏やかなライフスタイルに導かれるようにアート関係者が集まってきている。また、アートスペースを作ることで、カンボジアのアートシーンを盛り上げていこうとする動きがみられる。

カンボジア南部の沿岸部に位置する小さな街、カンポット

塩、胡椒、ドリアンの名産地として有名であるほか、自然豊かでのんびりとした雰囲気に惹かれた人々が休暇に訪れる観光地でもあります。

フランス領時代に避暑地として利用されていたボーコー国立公園があり、街中にも当時の面影をたたえるフランス様式の建物が残っているため、異国情緒とローカル感を合わせ持つ独特な趣があるのも特徴的。

最近では、絵になる景色が満載の街にアートスペースが増えてきており、カンボジアにおけるアートの発信地としての顔が現れてきています。

アーティスティックな香り漂うカンボジア南部の街、カンポット

写真:筆者提供

カンボジアの首都プノンペンからカンポットまでは、車で南に約4時間。カンボジア人の国内旅行先としても親しまれているこの地には、欧米人をはじめとする外国人在住者も増えてきています。

カンポットの魅力は、なんといっても山や海・川・湖といった豊かな自然に囲まれた、ゆったりとした雰囲気。観光客の方なら、ボーコー国立公園、ボーコー山、胡椒農園、塩田、湖といったスポットを訪れることが多いのではないでしょうか。

一方、カンポットの魅力は景色だけではありません。最近になって目立ち始めたアートタウンとしての側面も注目すべきところ。

ピースフルでインスピレーションを湧き上がらせる街の雰囲気に呼び寄せられるように、アーティストやアート関係者、ライター、ミュージシャンなどの文化人が集まってきており、この街にアートコミュニティができつつあるのです。

少し前までカンポットのアートスペースといえば、NGOやボランティアが主導するアートスクールや伝統的な音楽・ダンスを教える学校がわずかにある程度でしたが、近年ではアートスタジオやギャラリーが続々と新設されています。

近代化の中、カンポットでも都市部同様に不動産開発が進み、景観やコミュニティ保護の観点から問題視されている現状もありますが、そういった変化の途上にある状況さえもまた、表現者の心を揺さぶる要素になっていると言えるかもしれません。

今後さらにアートタウンとして発展していく可能性に溢れた街、カンポット。

ここからは、カンボジアのアートシーンの発展に貢献しているカンポットのアートスペース3選をご紹介します。

カンボジア人アーティストが集まる創造とシェアの場:「Open Studio Kampot」

写真:筆者提供

両サイドの壁には作品がずらり。中央の作業机には、制作に勤しむ人々の姿が見られます。

こちらは、2018年にオープンした「Open Studio Kampot」。カンボジア人アーティストの活動を支援するアートスタジオです。

始まりは、アメリカ出身のアーティストであるLauren Iidaが、自身が主催するアートツアーにて、カンポットのアートスクール「Epic Arts」を訪れたこと。そこで、カンボジア人アーティストのChan Phoun(以下、Phoun)と出会って彼の才能を目の当たりにし、共にスタジオを始めることになりました。

Phounは、事故で片腕を失ったことで周囲からの偏見を感じるようになり、人と話すことや笑うことすらできなくなってしまった時期があったものの、アートに出会って人生を180度変えたアーティスト。

「アートとは、喜びと強さを与えてくれるものです。」と、今では力強く語ります。

スタジオのミッションは、ビジュアルアート領域におけるカンボジア人アーティストのキャリア支援とカンボジアの現代アートシーンへの貢献。アーティストには、制作・保管場所や画材などを無償提供するほか、作品展示・販売機会を提供しています。

「以前は1人で制作していました。作品を保管する場所もなく、雨に濡れると作ったものがすぐに駄目になってしまうような状況でしたが、今はそういった心配もありません。」

現在のレギュラーメンバーは、6名のカンボジア人アーティストを含む7名。それぞれ異なるスタイルを追求する彼らは、時に国内外のゲストを交えつつ、スキルシェアをしながら切磋琢磨しています。

写真:筆者提供

スタジオ外でのポップアップ展示やアート関連イベントでのブース出展も多数。

「Open Studioは、営利団体でなければNGOでもありません。ここに来たいと言ってくれるアーティストの活動を純粋にサポートするための場です。」

一方で、カジュアルなギャラリーとして、アートに関心がある人々が訪問することは大歓迎。作品の販売もしています。

写真:筆者提供

将来的にはキッズ向けのアートワークショップの開催なども検討しているとのこと。

スタジオ内では、夜遅くまで作品制作をするアーティストの姿が見られました。

写真:筆者提供

カンボジア人アーティストの制作の様子を生で見て、直接話を聞いてみたい方には必見のスポットです。

・Open Studio Kampot
ホームページ:https://www.openstudiokampot.com
Facebookページ:https://www.facebook.com/openstudiokampot/

カンボジアの現代アートの「今」が詰まったギャラリー:「Kampot Art Gallery」

写真:筆者提供

「Kampot Art Gallery」は、2018年に設立された3フロアのギャラリーです。

3階のスペースで2018年12月から開催されていたのは、企画展「Kampot-The Changing Landscape」。

2名のカンボジア人アーティストの作品は、カンポットおよびカンボジア沿岸部における景色の変化について問題提起するもの。

写真:筆者提供

近年の著しい経済成長を背景に、カンボジア都市部では外国企業による不動産への投資・開発が急速に行われていますが、状況は沿岸部でも同様です。
自然に囲まれ、豊かな観光資源を有した土地は次々と開発者へと売却され、景観は変わり、地域コミュニティはなくなり、産業は失われて人々の暮らしも一変します。

写真:筆者提供

開発による一時的、部分的な経済的恩恵の裏で、代償も非常に大きい。これらはもはや、カンボジア全土にはびこる問題とも言えるでしょう。

「基本的にカンボジア人アーティストの作品のみを扱っています。彼らの活動をサポートし、紹介していく場にしたいと思っていますので。また、ただ美しいだけの作品ではなく、社会情勢や環境、コミュニティの問題などに言及した作品を展示していく方針です。」

と語るのは、ギャラリー創設者でオーナーのLiz Heeley氏(以下、Liz)。オーストラリア出身の元フォトジャーナリストで、ファインアートの学位も保有しています。

「フルタイムの仕事を掛け持ちして生計を立てているアーティスト達がアートに専念できるよう、アートを取り巻く状況の改善にも貢献していきたいのです。」とも言います。

ココナッツの殻からできた魚が泳ぐ2階のアクアリウムでは、今後、カンボジアの漁業の現状を伝えるビデオを流し、教育スペースにしていくそう。

写真:筆者提供

「一番望んでいるのは、多くのカンボジア人がギャラリーを訪れてくれるようになることです。」とLiz。

最近では、学生グループをギャラリーに呼び、ビジュアルを通して物事を伝えることの大切さを伝えています。基礎教育課程の中でアートの授業がないカンボジアにおいて、これは非常に革新的なことです。

ギャラリーであると同時に、アートを通じて環境・社会問題を提起し、教育・啓発するスペースでもある「Kampot Art Gallery」。

ただ美しいだけではなく、メッセージ性の強い作品を観たい方におすすめのスポットです。

写真:筆者提供

場合によっては、色彩と示唆に富んだ作品が満載のプライベートコレクションを見せてもらうこともできるかもしれません。

・Kampot Art Gallery
ホームページ:www.kampotartgallery.com
Facebookページ:https://www.facebook.com/kampotartgallery/

領域横断型のクリエイターズHUB:KAMA (Kampot Arts & Music Association)

写真:筆者提供

1階は、アート作品やヴィンテージグッズなどがぎっしり並んだカフェ兼ショップ。コーヒーを飲んで寛いでいるだけでも、アーティスティックな気分に浸ることができそうなスペースです。

靴を脱いで2階に上がっていくと、アート作品や雑貨を販売するショップとデスクで仕事をする人々の姿が。

写真:筆者提供

迎えてくれたのは、KAMAの創設者・現スポンサーであり、ここで一クリエイターとして活動しているオーストラリア人のJulien Poulson(以下、Julien)。

「ここはクリエーターのHUBです。コーヒーを片手にミーティング、シェアリング、作品制作や仕事をする場であるほか、時にはイベント会場として使用することもあります。私たちはNGOではありませんが、国内外の様々な領域の人々を巻き込み、ここから何かを生み出すプラットフォームを作れたらと思っています。」

Julien自身もアーティストであり、ミュージシャン。アート・音楽・映像など複数の分野を股にかけ、数々のイベントを主催しています。カンポットを拠点にしながらも各地を旅し、カンボジアのアート・カルチャー界のムーブメントを作り出している立役者の1人なのです。

「KAMAの現オーナーは、カンボジア人女性のSoonです。彼女もアーティストで、木版画やペインティングなどの作品制作をしながら、この場所の運営を管理しています。」

写真:筆者提供

ビジュアルアートに限らず広義のアートを扱うKAMAの室内では、ヴィンテージサウンドが心地よく鳴り響きます。

時には、アーティストや作家、ミュージシャンが国内外から集まるイベント会場へと様変わり。また、カンボジア人女性がロックミュージックを通じて自己表現することを後押しするキャンプも不定期で開催されています。

「音楽やダンスはローカルの人をもっとも巻き込みやすい方法だと思います。特に分かりやすい形なのですよね。」とJulien。

とJulien。Photo14

写真:筆者提供

KAMAは、間違いなくカンポットを代表するアーティスティックなHUB。ここでカンボジア人アーティストによるアート作品に囲まれながら、コーヒーとレトロな音楽をお供に、物思いに耽ってみるのはいかがでしょう。

・KAMA (Kampot Arts & Music Association)
Facebookページ:https://www.facebook.com/kampotarts/

これからのアートタウン化に注目が集まるカンポット

これからのアートタウン化に注目が集まるカンポットPhoto15写真:筆者提供

元来、アートが生まれやすい雰囲気を持つ田舎町、カンポット。そこに魅せられた外国人と現地の人々が手を取り合い、ローカルから徐々にアートシーンを盛り上げていこうという動きが散見されます。

決して大きな街ではありませんが、カンボジアのアート発信地としてさらに発展していく可能性を秘めていることは間違いありません。

カンボジアに少し長めに滞在できる方は、プノンペンから少し足を伸ばしてカンポットまで行ってみるのはいかがでしょうか。

アートスペースを巡って作品に触れ、アーティストやギャラリストと話すのもよいですし、自身の創作活動に勤しむのもよいでしょう。

カンポットのインスピレーションを掻き立てる空気感は、肌で感じてみてこそ、よりよく分かるものです。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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