John Lennon: ジョンの魂の叫び

ジョン・レノンとは

1940年10月9日生まれ。ロック史上最強バンド、ザ・ビートルズのメンバー。他のメンバーはポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソン、リンゴ・スター。1962年のデビュー以降、世界中で空前のビートルズ・ブームを巻き起こした。1966年の夏以降はコンサート・ツアーを中止してレコーディングに専念し、いまだに多くのファンに愛され続ける歴史的名曲・名盤を量産した。1970年ビートルズ解散後はソロ・アーティストとして活躍。息子ショーンの誕生を期に1975年から5年間をハウスハズバンドとなり、音楽活動を休止。1980年活動再開するが、その直後に自宅前でファンに銃で撃たれ死亡。享年40歳。

ビートルズ時代の作品

ジョンが己を曝け出すような歌詞を書くのはアルバム「ジョンの魂」が初めてではない。いくつかのビートルズ時代の楽曲からも率直に自分を表現するジョンのオリジナリティが見てとれる。

「ヘルプ!」

1965年リリースの同名アルバムのオープニング曲であり、彼らの2作目の主演映画で流れるサウンドトラックの1曲でもある。歌詞は、落ち込んでいる僕をそばにいて助けて!という内容だが、これは実際にビートルズ狂想曲の中で、自分自身を見失いかけていたジョンの本当の心の叫びであり、彼の作った最初のメッセージ・ソングであると後日供述している。

「イン・マイ・ライフ」

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6枚目のオリジナル・アルバム「ラバー・ソウル」に収録。このアルバムあたりから、ジョンの歌詞にボブ・ディランらフォーク・ロックからの影響が感じられるようになる。「イン・マイ・ライフ」の歌詞は、1番では死んでしまった友達や、かつての恋人、変わってしまった場所を時々思い出し、一生涯大切にしていきたい、と語り、2番ではそんな全ての思い出と比較しても君の事が一番大切で、ずっと愛し続けていくよ、というラブソングである。この人生を総括するような楽曲を発表した当時ジョンはまだ25歳だったというのが驚きだ。

「アイ・アム・ソー・タイヤード」

アルバム「ザ・ビートルズ(通称:ホワイトアルバム)」に収録。世界中のアイドルであり、スーパースターであるアーティストが「ひどく疲れた。何もする気がしない。本当に疲れたよ。」と気だるそうに歌うなんて常識的にあり得ない。これもジョン・レノンならでは、という楽曲だ。

「エブリボディーズ・ゴット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー」

これもアルバム「ザ・ビートルズ(通称ホワイトアルバム)」に収録。長い曲名がずばりストレートに「僕と僕のモンキー(ヨーコの事)以外はみんな何か隠し事を持っている」というメッセージである。歌詞の中には「もっと深く潜ってもっと高く飛び、もっと高く飛んで、もっと深く潜る」、や「内側が出ると外側が引っ込み、外側が出ると内側が引っ込むなど」など精神社会に通じるような意味不明な言葉が並んでいる。

ソロ時代の作品

アルバム「ジョンの魂」とリリース時期は前後するものもあるが、ジョンがビートルズ解散後にソロとして発表した代表的な曲を先に紹介しておきたい。

「イマジン」

愛と平和のメッセージがこめられた「イマジン」。これにはジョンの2番目の日本人妻、ヨーコ・オノの影響があったことは間違いない。セックス、ドラッグ、ロックン・ロールと言う言葉があったように、ロックには反社会的で、既存の体制への反抗、といったイメージが強かった時代で、ジョンの平和へのメッセージは当時全面的にロック・ファンから支持された訳ではなく、むしろ批判的な声が多かった。しかし、ジョンとヨーコは強い意志で、このメッセージを送り続けた。そして「イマジン」は、ジョンが亡くなった現在でも、「愛と平和」のアンセム・ソングとして色あせる事なく生き続けている。

「パワー・トゥ・ザ・ピープル」

「人々に力を」「革命を起こそう」「労働者よ立ち上がれ」「女性の権利を守ろう」とゴスペル調にみんなで歌いあげるシンプルなプロテスト・ソング。ここでもあえて女性の扱い方について言及している。ジョンのシャウトがとても似合う楽曲。

「コールドターキー」

1969年発表。ヘロイン中毒者が禁断症状で発汗して鳥肌が立つ状況を表わす俗語。「熱が上がり、骨まで鳥肌が立ち、夜も眠れず、36時間のたうち回る」といった症状の詳細を語る歌詞、響き渡るジョンのシャウト、それを助長させるギターのうねり…。「愛と平和のジョン・レノン」と対照的なところにいるもう一人の「狂気のジョン・レノン」がここにいて、それもまた彼の魅力のひとつである。

「女性は世界の奴隷か」

1972年発表の「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」収録。ジェンダーやフェミニズムが語られるはるか以前にジョンは女性運動を歌にしていた。これも明らかにヨーコの影響である。ニガー(奴隷)という単語で放送禁止曲に指定されたりもしたが、あえてこの言葉を選んだことにジョンの現状への強い憤りと変革への強い意志を感じる。

「ウォッチング・ザ・ホイールズ」

生前最後のアルバム「ダブル・ファンタジー」に収録。かつていた華やかなショービジネスの表舞台の世界をメリーゴーランドに例えて、もうメリーゴーランドに乗るつもりはない。ここに座って車輪が回っているのを見ている方が今は好きなのさ、と自身の現在のポジションと心境を表現している。

「スターティング・オーバー」

1980年10月にシングルとしてリリースし、アルバム「ダブル・ファンタジー」に収録された。音楽活動を休止して一緒に過ごした期間はとてもかけがえのないものだったけど、そろそろもう一度一緒に飛び出してみないか?とヨーコに語りかける。この曲によって5年の沈黙からの活動再開を宣言したジョンだったが、その直後に凶弾に倒れ、命を落とす事になってしまった。

アルバム「ジョンの魂」とは

ビートルズ解散後のソロ(名義上はプラスチック・オノ・バンド)としての第1作目のアルバム。雑誌ローリング・ストーン誌のロック史上歴代ベストアルバムで22位にランクインしている名盤中の名盤。

自分を曝け出した歌詞がファンに衝撃を与えた。
このアルバムは、ジョンがアーサー・ヤノフ氏の考案したプライマル・セラピーという、子供の頃の記憶に遡り、今まで心に残っている痛みやトラウマを改めて引き出し、大声を叫ぶことで解消する療法を体験して生まれた作品と言われている。全体的に演奏はいたってシンプルで、その分ジョンの言葉のヘヴィーさが楽曲として際立っている。

こでいくつかの楽曲を紹介しよう。

「マザー」

東洋の鐘の音から、ゆっくりと楽曲はスタートする。「お母さん、僕はあなたのものだったけど、あなたは僕のものではなかった。」そして、曲の最後、ジョンは繰り返し、繰り返しシャウトする。「お母さん行かないで、お父さん帰ってきて」と。船乗りだった父親は蒸発し、母親ジュリアは別の人と再婚して一緒に暮らせなかったジョンの幼少期の辛い思いを赤裸々に歌っている。

「ラヴ」

愛に関する概念をシンプルに淡々と綴った一曲。「愛」とは、真実、感覚、触れ合い、到達、自由、そして「愛」とは「あなた」だと語る。演奏もアコースティックギターとピアノでのみで、ヘヴィーなアルバムの中であっさりと聴かせる役割。最後に「愛とは愛されることを必要とされている」という歌詞があり、両親がジョンを幼少期に愛してくれなかった事、ヨーコが自分を愛してくれている事を表現している。

「ゴッド」

「神とは人々の苦痛を計測する概念だ」と語り、自分が信じないというものの単語を羅列していく。聖書、タロット、仏陀、マントラ等から、J.F.ケネディ、エルビス・プレスリー、ボブ・ディランまで。そしてジョンはこう宣言する。「僕はビートルズを信じない」と。ファン達に夢はもう終わったので自分自身の道を行くよう諭している。

「マイ・マミーズ・デッド(母の死)」

幼少期に一緒に暮らせなかった母ジュリアだが、ジョンがティーンエイジャーになった頃、家を行き来するような交流が生まれ、当時のジョンの心に温かみを与えるようになっていた。しかし、ジョンが17歳の時、母ジュリアは交通事故に遭い、突然亡くなってしまった。急に母を失った悲しみを彼はシャウトではなく、ささやくようにこう表現している。「この痛みには耐えられそうにない」と。
幼少期の両親不在による寂しさを歌った「マザー」で始まったアルバムは、再び母を失ったこの曲「マイ・マミーズ・デッド(母の死)」で幕を閉じるのである。

まとめ

楽曲「ゴッド」の中で「神は人々の苦痛を計測する概念である。」と言いながら、同じアルバムの中で自身の苦痛について歌い上げるジョン。しかも幼児体験にまで遡り、自身のパーソナリティ形成にも大きく影響したであろう最も悲しい出来事に改めて向き合い、その心情をあの独特なロック・ヴォーカルで歌い上げる。ここまで誠実なロック・スターは他には存在しないし、だからこそこのアルバムはリスナーの心を深く揺さぶるのだ。アーティストから見れば、リスナーが本当に自分の表現を理解してくれているかどうか疑問に思う事もあるだろう。しかし、ジョンは、誤解も恐れず、愛と平和のメッセージを含めありのままを表現してきた。それがロック・スター、ジョン・レノンが今でも誰よりも愛される理由であり、「ジョンの魂」がロック史に残る名盤と言われる所以である。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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