アントウェルペン(ベルギー):ルーベンスが愛した歴史の街

「ルーベンス」はバロック期を代表するベルギーの画家である。繊細で大胆なタッチはルーベンス作品の大きな特徴。また、7ヶ国語を巧みに操る外交官としての顔も持ち合わせていたという。歴史に名を刻む偉大な芸術家の一人だろう。そんなルーベンスが住居を構え、愛した街がベルギーの「アントウェルペン」である。ベルギー北部に位置する国内第二の都市。ルーベンスとルーベンスが愛した街アントウェルペンの魅力を、詳しくお伝えしていこう。

バロック期の代表画家「ルーベンス」

「ピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens)」は絵画の黄金時代、バロック期を代表するフランドルの画家です。フランドルとはフランダースとも呼ばれ、ベルギーやフランスの一部の地域を指す言葉。ルーベンスが描いた作品は祭壇画や肖像画など幅広く多岐に渡ります。画家としての顔のほかに美術品収集家、外交官としての表情も持ち合わせていたというルーベンス。巧みに操る外国語はなんと7つにも及んだといいます。

1577年、ドイツの「ジーゲン(Siegen)」に生を受けたルーベンスは、父親の死後ベルギーのアントウェルペンへと移住してきました。その芸術的素養を若くから見出され、著名な画家の元へ弟子入りしたといいます。1598年には画家としての修行を終え、一人前の芸術家として組合に登録、その後イタリアで数年間を過ごしました。このイタリアでの数年感の滞在は、ルーベンスの作品に少なくない影響を与えているのでしょう。

(Public Domain/‘The Judgement of Paris’ by Peter Paul Rubens. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)
(Public Domain/‘The Last Judgement’ by Peter Paul Rubens. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

アントウェルペンへと戻ったルーベンスは大規模な工房を経営。当時から高い評価を受け続け、晩年までアントウェルペンを拠点に活動を続けました。「パリスの審判(The Judgement of Paris)」は、ギリシャ神話の3人の女神を中心に描いた代表作品。ルーベンスは同じ題材で数枚を描いたといいます。「最後の審判(The Last Judgement)」も、同様に代表作のひとつでしょう。ルーベンスが長年を過ごしたアントウェルペン。その存在は彼に大きな影響を与えたはずです。アントウェルペンの魅力を紹介していきましょう。

ルーベンスが過ごした最愛の街「アントウェルペン」ルーベンスが過ごした最愛の街「アントウェルペン」

「アントウェルペン(Antwerpen)」はベルギーの北部に位置する一大都市です。その規模は「ブリュッセル(Brussel)」に次ぐ国内第二の規模。街中にはヨーロッパらしい洗練された佇まいの建造物が豊富に残り、落ち着いた景観や雰囲気を形成しています。アントウェルペンの起源と考えられているのはローマ文明の集落。その後、歴史の中でアントウェルペンは出版業の一大拠点として発展。現在でも、街中は多くの人々で賑わっています。

アントウェルペンはダイヤモンド取引でも世界に名を馳せています。街中には4つのダイヤモンド取引所が現存し、連日たくさんのダイヤモンドが取引されているのだとか。また、街中にはユネスコ世界遺産に認定されている建造物が4件あり、観光地としての名声も確立しています。世界最古の動物園の存在も、街の知名度を上げている大きな要因のひとつでしょう。魅力が尽きない街アントウェルペン。その見所を詳しく紹介していきましょう。

アントウェルペンの見所

アントウェルペンの街には、魅力的な見所が豊富です。「聖母大聖堂」は世界遺産にも認定されている街のランドマーク。荘厳な佇まいはもちろん、大聖堂内部にはルーベンスが描いた祭壇画が数多く残されています。出版業を支えた「プランタン=モレトゥス博物館」も同様に世界遺産の登録物件です。そのほか、街の中心にある「マルクト広場」やベルギー屈指の美しさを誇る「中央駅」など、街の見所を解説していきます。

アントウェルペンを抱く荘厳な「聖母大聖堂」

「聖母大聖堂(Onze-Lieve-Vrouwekathedraal)」はアントウェルペンの街中に佇む、ローマ・カトリック教会の聖堂です。1999年にユネスコ世界遺産「ベルギーとフランスの鐘楼群(Belfries of Belgium and France)」のひとつに認定。12世紀の聖堂を前身に建造された大聖堂は、アントウェルペンの誇るランドマークでしょう。1352年に建造を開始、1521年には南塔を除いて完成。ゴシック様式の北塔が目を引く、街を統べる存在といえます。

聖母大聖堂はベルギーでも最大規模の聖堂です。ゴシック様式で統一された大聖堂の外壁は白が基調、屋根の灰色が存在感を高めます。123mの北塔は複雑に入り組んだ設計。街のどこからでも目にすることができるでしょう。大聖堂内部は白が支配する、明るく開放的な造りです。均等に配された柱や窓は、洗練された印象を加速させるでしょう。時間を過ごすだけでも厳かな感情が沸き起こり、自然と慈愛に包まれることは間違いありません。

祭壇後方に掲げられた「聖母被昇天(Assumption of the Virgin Mary)」は、慈愛の表情に満ちた聖母マリアが天に導かれる姿を描いたものです。

「キリスト昇架(The Elevation of the Cross)」と「キリスト降架(The Descent from the Cross)」は縦の長さが4mを超える祭壇画の超大作。これらの作品を描いたのがルーベンスです。絶対的な感銘を与える圧倒的な画力に写実的な描写は必見。聖母大聖堂で厳かなひとときを、ぜひお過ごしください。

アントウェルペンの出版業の拠点「プランタン=モレトゥス博物館」

「プランタン=モレトゥス博物館(Museum Plantin Moretus)」は2005年にユネスコ世界遺産に認定。単独の博物館として世界で初めて登録された、記念すべき歴史の名所です。16世紀の出版業者である「クリストフ・プランタン(Christophe Plantin)」の工房を前身として建造されたという博物館。アントウェルペンの出版業の一大拠点であったという事実にも納得でしょう。時代を重ねた名残は感じるものの、その風格は健在といえます。

プランタン=モレトゥス博物館では、現存する世界最古の印刷機や当時使用されていた印刷用の活字に出版物や貴重な書簡の数々など、多様な品々を目にすることができます。また、アントウェルペンの芸術家が集うサロンとしての役割も果たしていたことから、豪華な調度品や装飾品も豊富なのだとか。美しく整備された中庭も必見です。貴重な歴史の歩みを感じることができる場所。アントウェルペンで必ず訪れたい、見所のひとつです。

街の中心「マルクト広場」

「マルクト広場(Grote Markt)」はアントウェルペンの中心地に広がる、石畳と建造物が連なる広場。情報収集に最適な観光案内所や、7つの建物が横に並んだギルドハウス群など、街を彩る重要な建物も数多く軒を連ねています。ギルドハウスの頂上に並んだ、各ギルドを象徴する金の彫像は必見でしょう。「ブラボーの噴水(Silvius Brabo)」は、アントウェルペンに伝わる伝説を表現した、シンボルマークの代表格といえます。

「アントウェルペン市庁舎(Antwerpen Stadhuis)」は1561年〜1565年にかけて建造された、マルクト広場最大の見所です。均整のとれた美しいルネサンス様式の建造物は、広場の雰囲気を統一しています。煌々と輝く金色のワシの像や、慈悲深い聖母マリアの抱く微笑

を見逃すことはできないでしょう。ターコイズブルーと金色の華やかな装飾が目を引きます。正面には多くの国の国旗が掲げられ、常に賑わいを見せる市庁舎は注目ですよ。

アントウェルペンの駅は必見、特産のムール貝に舌鼓

「アントウェルペン中央駅(Station Antwerpen-Centraal)」は街の主要な玄関口のひとつです。その佇まいは映画のワンシーンに登場してくるかのように荘厳なもの。ベルギーで最も美しい駅のひとつとしても有名です。鉄とガラスでできた巨大なドームは高さ44m、長さ185mにもなり、その滑らかなアーチには、息を飲むでしょう。石造りで宮殿のような駅の佇まいは見逃せない見所といえます。

「ルーベンスの家(Rubenshuis)」は茶色の暖かみを感じる外観が特徴の、ルーベンスのかつての住居兼アトリエです。ルーベンスが1610年に購入、29年間に渡って居住したという建物は、現在博物館としての役割を果たしています。イタリア風に改築された家の内部はルーベンス本人の手による自画像や、多くの芸術作品が展示されています。「ポルチコ(Portico)」、すなわち柱廊の複雑な装飾は必見でしょう。感銘を受けること必至です。

アントウェルペンを代表する美食といえば「ムール貝(Moules)」です。その凝縮された旨味を口に頬張る時間は至福といえるでしょう。中でもぜひ挑戦したいのが「ムール貝の白ワイン蒸し(Moules au vin blanc)」です。キャセロール鍋にたっぷりと盛られたムール貝の量には、まず驚きを隠せないでしょう。芳醇な白ワインの鼻腔をくすぐる香りは空腹を刺激します。ベルギービールと合わせて食する時間はこれ以上ない幸福な時間ですよ。

歴史豊か、ベルギーを代表する街アントウェルペン

ルーベンスが愛した街、アントウェルペンの豊富な魅力をご紹介してきました。街のランドマークである聖母大聖堂や、世界遺産プランタン=モレトゥス博物館、街の中心にあるマルクト広場やアントウェルペン市庁舎の佇まいは必見です。また、アントウェルペンには美術館や博物館など、芸術性を養うための場所も豊富。街に宿る多種多様な魅力は、世界中多くの人を魅了しています。

アントウェルペンへのアクセスは「ブリュッセル国際空港(Luchthaven Zaventem)」から、直通電車の利用が一般的です。所要時間はおよそ40分。同様の時間でブリュッセルからアクセスすることもできるでしょう。美しいアントウェルペン中央駅も、お見逃しなく。歴史が輝くアントウェルペンの魅力、次回の旅で堪能してみてはいかがでしょうか?

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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