金(ゴールド)価格に逆転された白金(プラチナ)価格の低迷が続く要因は地球環境問題

一般的なイメージとは逆に、白金(プラチナ)が金(ゴールド)よりも価格が安い状況が続いている。白金は7割が南アフリカ一国で産出されており、白金の大半は自動車産業をはじめとした工業用途で占めている。金のような「通貨代わり」には使いにくいため「有事の白金買い」はまず起きない。最大の需要であるディーゼルエンジンの触媒は、「パリ協定」のCO2削減目標に対応する「エコカーシフト」でディーゼル車が減産すれば先細りになっていく。それに為替の南アフリカ・ランド安もあいまって国際価格の低迷が続いている。

「白金(プラチナ)は金より安い」が固定化

「白金(プラチナ)は、金(ゴールド)よりも価値が高く、高価な貴金属である」そんな常識は、もはやすでに常識ではなくなっている。現状では白金の国際価格(1トロイオンスあたりの米ドル価格)が金の国際価格を下回る状態が続いており、2018年後半は金が上昇して白金が下落したため、その差はさらに開いた。
2018年12月、白金価格は一時800ドルを割り込んで15年1ヵ月ぶりの安値を記録し、2008年に2000ドルを一時突破した時の約4割にまで落ち込んでいる。
011年、金価格が白金価格を上回った時には「歴史的大異変」とまでいわれた。2013~2014年には白金価格が金価格を再逆転していたが、2015年になると再び金価格が白金価格より高くなり、そのまま現在に至っている。
とは言っても、16世紀に中南米の銀鉱山の増産に伴って銀価格で起こったように、世界のどこかで白金の大鉱脈が発見され増産で価格が急落した、というわけではない。

「一国集中」で南アフリカ情勢に左右される

2018年の世界全体の銀鉱山の産出量は約2万6616トン、金鉱山の産出量は約3503トン、白金鉱山の産出量は約185トンで、白金の鉱山産出量は銀の144分の1、金の19の分の1しかない。人類の歴史が始まって以来の採掘済みの量を立方体の塊にすると、銀は縦・横・高さ52メートルで高層ビル並みの容積があるが、金は20メートルで小さなビル程度の大きさで、プラチナは7.2メートル角で床面積100平方メートル程度のマンションの一室にすっぽり収まってしまう。

白金はもともと宇宙から飛来する隕石に乗って太古の地球に降ってきたといい、地球上で採掘可能な新たな鉱脈の発見は事実上もうないともいわれている。その点は、21世紀に入ってもアフリカのガーナ、マリ、スーダン、ブルキナファソなどで新しい鉱山が次々と開発された金とは事情がだいぶ異なる。
白金の鉱山の産出量はトップの南アフリカが世界の70%を占める。2位のロシアは11%、3位のジンバブエは7%にすぎない。推定可採埋蔵量は金が約5万4000トン、白金は1万6000トンから2万トン程度で、そのほとんどは南アフリカの首都プレトリア周辺にある「メレンスキー・リーフ鉱床」に集中している。

このように「一国集中」が著しいため、白金の世界生産量やその国際価格は南アフリカの政治、社会、経済情勢に左右されやすい。2010年、サッカーのワールドカップが南アフリカで開催されたが、その前には「鉱山の仕事より実入りがいい」と鉱山労働者がスタジアムや交通インフラの建設工事に流れて人手不足が起き、鉱山の労賃が上がって白金価格も上昇するという面白い現象が起きた。
2014年には南アフリカの鉱山会社の労働組合のストライキが長期化して採掘作業がストップし、南アフリカの減産が世界の白金の生産量を大きく押し下げた。その2014年から2015年にかけては、ズマ政権の経済政策の失敗や国内の不況で南アフリカの通貨ランドの対米ドルレートが大きく下落し、それが白金の国際価格を大きく押し下げた。
それでも世界の白金の供給量は比較的安定している。2014年の長期ストライキの影響を除けば、鉱山の産出量に工業製品やジュエリーなどから回収したリサイクル(いわゆる「都市鉱山」)分を合わせた供給量は2010年以降、2011年の817.8万オンス(=約229トン/1オンス=約28グラム)と2012年の758.7万オンス(約212トン)の間の上下17トンの範囲で推移している。

安定しているのは世界の白金の需要量も同様で、2015年以降は782.2万オンス(219トン)~798.1万オンス(223トン)の上下4トンの狭い範囲で、供給量とほぼ均衡している。

有事の金買いはあっても白金買いはない理由

供給も需要も安定しているのに、なぜ白金の国際価格は低迷し続けているのか?その答えは「需要の中身」にある。
白金の需要先は43%が「自動車産業向け」で「宝飾品需要」は30%にとどまる。工業用需要が65%もあるので投資用の白金地金(インゴット)に回る量は非常に少ない。一方、金は工業用需要が10%しかなく、53%が宝飾品需要、37%が金地金や金貨で保有するための投資用需要となっている。白金と金では、需要構造はかなり違っている。

白金の需要先は43%が「自動車産業向け」で「宝飾品需要」は30%にとどまる。工業用需要が65%もあるので投資用の白金地金(インゴット)に回る量は非常に少ない。一方、金は工業用需要が10%しかなく、53%が宝飾品需要、37%が金地金や金貨で保有するための投資用需要となっている。白金と金では、需要構造はかなり違っている。

もし、自分の国で暴動や革命が起きたり、戦争に巻き込まれたり、国家財政や経済が破たんしハイパーインフレが起きたりと、やむなく「難民」として国境を越えて他国に避難せざるを得なくなった時、資産を持ち出す手段として金のジュエリー、金貨は便利な存在だ。不動産は持ち出し不可能。自国通貨は為替レートが暴落するので問題外。米ドルやユーロの紙幣の札束はかさばり、金地金は重すぎる。治安が悪化する中で国境に着く前に盗賊に奪われたり、国境警備隊に没収されたりする危険もある。高級車や美術品も途中で破損や没収の恐れがある。しかしジュエリーや金貨は札束のようにかさばらず、金地金のように重すぎず、服の中に隠したり身につけたりしていれば没収されることなく国境を越えられる可能性が高い。

さらにありがたいのは、国境を越えて少し大きな町に到着した時、そこの貴金属店で現地通貨に換金し当座の費用を手に入れやすいことである。金のジュエリーや金貨はたいていの貴金属店なら鑑定のノウハウを持っており、買い手もすぐに見つけやすいため、比較的容易に換金に応じてくれる。
ところが、白金のプラチナジュエリーや、アメリカやカナダの政府が発行しているプラチナコインは、国境を越えて持ち出せたとしても中小規模の貴金属店では換金しにくく、断られる恐れがある。色が銀やパラジウムに似ていて、鑑定のノウハウが金ほど浸透していないこと。それに加えプラチナジュエリーは需要も流通量も純金ジュエリーよりずっと少なく、転売先がなかなか見つからないため街の貴金属店では受け入れにくい。
これでは白金はいざという時に通貨の代わり、「有事への備え」になりにくい。金の国際市場では、世界のどこかで革命や戦争が起きると「有事の金買い」で価格が上がる現象が起きるが、「有事の白金買い」はまず起きない。実際の有事の際、白金はその希少性がかえってあだになるからである。

地球環境問題が白金の国際価格を下げた?

白金の需要先は65%が工業用で、43%が自動車産業向けであることも、最近の国際価格の下落に拍車をかけている。実はそこに「地球環境問題」が大きな影響を及ぼしている。
途はディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する「触媒」だ。乗用車でディーゼル車の比率が高いのはヨーロッパ各国なので、白金の需要はヨーロッパの自動車産業に支えられてきた、といっても過言ではない。
ところがそのヨーロッパではディーゼル車の将来の見通しが暗くなっている。2015年、ドイツのフォルクスワーゲンがディーゼル車の排気ガスデータをねつ造して環境性能を良く見せようとした問題が発覚し、ディーゼルへの不信、ガソリン車シフトを招いた。さらに2017年7月、フランスのマクロン政権が「2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する」と表明し、英国政府や中国政府も同調した。これが21世紀前半、ヨーロッパや中国からガソリン車もディーゼル車も消えるという「エコカーシフト」で、背景には地球温暖化(気候変動)の原因とされるCO2(二酸化炭素)の排出規制を締約国に課した2015年12月の「パリ協定」がある。

地球温暖化という環境問題を解決するために電気自動車(EV)や水素自動車(FCV)などへのエコカーシフトを進めると、ディーゼル車の生産台数が減少し、ディーゼルエンジンの排ガス浄化触媒としての白金の需要が減少していく。それが白金の「需要の先行き不安」につながり、為替市場での南ア・ランド安とあいまって国際価格の下落がなかなか止まらない、というメカニズムである。
ただし、白金価格も反転の可能性がないわけではない。その根拠はガソリンエンジン浄化触媒の「パラジウム代替需要」である。
パラジウムは白金やニッケルの副産物として産出される希少金属で、歯科材料やガソリンエンジンの浄化触媒として使われる。国際価格は2018年、うなぎ昇りに。現在では白金価格も金価格も上回り、それが自動車業界を悩ませている。白金はガソリンエンジンの浄化触媒にも利用できるので、パラジウムの代替品として価格が安くなった白金を使う動きが出てくる可能性がある。それが白金価格の底打ち、反転の見方の裏付けである。
そのガソリン車もヨーロッパではエコカーシフトでいずれ消えていく運命だが、アメリカや中国や日本では今後も生産が続いてディーゼル車より「長持ちする」と言われている。その触媒需要が生まれれば、白金の需要の先行き不安をある程度は緩和できるだろう。

かつて、白金はジュエリーとしての輝きや硬度、希少性があり、その価格で金をしのぐ「貴金属の女王」として君臨していた。そこから最高級クレジットカードの「プラチナカード」や、めったに手に入らない「プラチナチケット」といった言葉も生まれた。
それが今や、地球環境問題の影響も受けて国際価格は下落が続き、もともとは金歯の代替材料だったパラジウムにも逆転されたあげく、「白金は安いからパラジウムの代わりに使ってみるか」とまで言われる始末。白金はそのステータスもプライドもズタズタにされてしまったが、再び貴金属の女王に返り咲くことができるのだろうか

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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