ナンシー(フランス):ガラス工芸家、エミール・ガレが生まれた街

19世紀末〜20世紀初頭にかけて起こった芸術運動「アール・ヌーボー(Art nouveau)」を代表する芸術家「エミール・ガレ」。自然の滑らかな曲線美を描いたガラス作品の数々は、現代でも多くの人を魅了し続けている。そんなガレが生まれた街がフランス北部の「ナンシー」である。歴史的な建造物や芸術を伝える場が豊富な、フランスでも人気の観光地のひとつ。ガレとガレが生まれた街ナンシー。その魅力を詳しくお伝えしていこう。

歴史に名を刻むガラスの芸術家「エミール・ガレ」

(Public Domain/‘Self-portrait’ by Emile Gallé. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

「シャルル・マルタン・エミール・ガレ(Charles Martin Émile Gallé)」はフランスを代表する芸術家の一人です。「新しい芸術」を意味するアール・ヌーボーを牽引する人物であり、独特のガラス技法を世に生み出しました。芸術的な感性のほか、博学でもあったガレが生み出すガラス作品は、それ自体が命を持っているかのような、滑らかな動線を描いています。ガレの名前を一度は耳にしたことがあるという人も多いでしょう。

1846年、「ファイアンス焼き(Faience)」と家具工場の子供として生を受けたガレ。幼い頃から勉学に優れ、学校の成績は優秀であったといいます。ドイツへの留学を経た後ガラス製造の技術を学んだガレは、1886年に故郷ナンシーに工房を建造。多くの作品を世に送り出してきました。1889年、1890年のパリ万博では多くの賞を受賞。世界的な評価も高まり、確固たる地位を築くまでに至りました。その評価は現在まで続いているのです。

エミール・ガレの故郷「ナンシー」

「ナンシー(Nancy)」はフランス北部に位置する街。フランス第5の金融都市としても有名です。896年にはラテン語化された名前が残されていたナンシーの歴史は長いもの。かつてロレーヌ公国の首都として栄えた街の軌跡は、現代に至るまで色濃く反映されています。実として残されている「ナンシーの戦い(Bataille de Nancy)」はナンシーを語る上では外すことはできないでしょう。1870年以降には人口が増加し、都市化が進みました。

ナンシーの街が辿った歴史は、現在の観光地としての姿に大きく残されています。1983年にユネスコ世界遺産に認定された「ナンシーのスタニスラス広場、カリエール広場、アリアンス広場(Places Stanislas, de la Carrière et d’Alliance à Nancy)」はその代表でしょう。そのほか、ガレをはじめとした芸術家の作品が豊富に所蔵された美術館などもナンシーの特筆すべき観光資源といえます。フランス北部で輝きを放つ街がナンシーなのです。

ナンシーの見所

ナンシーの街の見所、まず注目すべきは、ユネスコ世界遺産に認定されている3つの広場でしょう。中でも「スタニスラス広場」は圧倒的存在感を放つ場所です。華やかながら重厚な造りを持つ荘厳な門の存在は無視できないでしょう。ナンシーの誇る芸術の聖地「ナンシー近代美術館」と「ナンシー派美術館」、壮麗な「ロレーヌ公宮殿」も見逃せません。また、美食が揃うナンシーの名物もご紹介します。

世界遺産、壮麗な「スタニスラス広場」

ユネスコ世界遺産に認定されている3つの広場があります。そのうちの代表格とされるのが、ロココ様式で建造された「スタニスラス広場(Place Stanislas)」です。縦106m、横124mと壮大な広場は石畳が広がる印象的な空間美。周囲には歴史を重ねた建造物が軒を連ねており、カフェやレストランも豊富に揃います。散策をするときには、必ずといってよいほど立ち寄ることになるでしょう。観光地としてはもちろん、ナンシーの人々にも愛されています。

広場中央には名前の由来となった「スタニスラス公(Stanislas Leszczynski)」の銅像が堂々と鎮座。広場の空気を統一しています。

そして、それ以上の見所が金色と黒色で装飾された、豪華絢爛な門の存在。華やかで重厚な造りの門は、ナンシーの旧市街と新市街を繋ぐための架け橋として建造されました。細かく施された門上部の彫刻部分は、注目必至でしょう。夜にはライトアップもされ幻想的な姿を覗かせます。

「カリエール広場(PlaceCarrière)」は、スタニスラス広場に面して建造された凱旋門をくぐると行き着く世界遺産のひとつです。細長く伸びた広場は並木道になっており風情があります。入り口に設置された門の佇まいと、奥にそびえる宮殿の対比図は絵になるでしょう。アリアンス広場は豪華な装飾こそないものの、素朴な存在感をたたえています。街を代表する3つの広場。時間をかけてゆっくりと、滞在を楽しんでみるのがよいでしょう。

芸術に触れるなら「ナンシー近代美術館」と「ナンシー派美術館」

「ナンシー近代美術館(Musée des beaux-arts de Nancy)」は1793年に開館した歴史の深い美術館です。開館のキッカケはフランス第一帝政皇帝であった「ナポレオン(Napoléon Bonaparte)」の施作によるもの。そのため、ナンシー近代美術館は地方の美術館とは思えないほどの豪華コレクションを所蔵しています。「ルーベンス(Rubens)」や「カラヴァッジョ(Caravaggio)」「モネ(Monet)」らの作品は、時代を見事に彩ってきました。

スタニスラス広場に面しているナンシー近代美術館は19世紀、20世紀、そして現代美術に触れる場としては最適です。フランス出身「ドーム兄弟(Daum Frères)」の150にもなるガラス作品も圧巻ですよ。

対して「ナンシー派美術館(Musée de l’École de Nancy)」は、ナンシー派と呼ばれた芸術家たちのパトロンの邸宅を改装して建造されたものです。日常空間に溶け込むように展示された作品の数々の美しさたるや、想像以上といえます。

1964年に開館したナンシー派美術館には、アール・ヌーボーの旗手エミール・ガレの作品が豊富に所蔵されています。ガレの作品を鑑賞していく中で技法の変遷やガレが辿った軌跡を追体験することができるでしょう。20世紀初頭の雰囲気を再現している中庭の美しさにも注目です。アール・ヌーボーの特徴である「自然との共存美」を堪能できる屈指の場所になります。

ナンシーを彩る建造物、美食の数々に舌鼓

「ロレーヌ公宮殿(Palais Ducal)」は13世紀のゴシック様式を見事に体現した建造物です。短くも存在感を放つ尖塔の存在は、建物全体を凛とした雰囲気で満たします。正面に施された人物や動物の細やかな彫刻にも注目でしょう。ロレーヌ公宮殿内部は現在博物館として機能。ナンシーを含むロレーヌ地方の歴史の歩みをセクションに分けて紹介しています。建物自体も博物館も同様に脚光を浴びる、街を代表する見所のひとつといえます。

ナンシーは、実は美食が溢れる街です。「キッシュ・ロレーヌ(Quiche Lorraine)」は街を代表するスペシャリテ。フランス定番のお惣菜として、人気を集めています。タルト型にはめ込んだパイ生地に、厚いベーコンとグリュイエールチーズ、卵と生クリームを使用した「アパレイユ(Appareil)」を流し込んでオーブンで焼き上げます。焼き目がついたキッシュは見た目から食欲を刺激します。一口頬張れば、その味わいは至福ですよ。

「ブシェ・ア・ラ・レーヌ(Bouchee a la Reine)」は「一口大の」「王妃様の」を意味する前菜の一種です。サクサクのパイ生地の中に濃厚なクリームソースと鶏肉、牛肉などが詰め込まれた贅沢な一品。ナンシーでは必食でしょう。

「マカロン(Macaron)」はナンシー独自のスタイルが根付いた小菓子です。卵白と砂糖、アーモンドを使用したフランスの定番菓子で、表面のヒビはナンシーのマカロンの特徴です。お土産にもオススメですよ。

歴史と芸術、美食の街ナンシーを堪能

フランス北部の街ナンシーの魅力をご紹介してきました。世界に名を馳せている芸術家エミール・ガレの感性を育んだ街の姿は、現在も変わらずその美しさを保っています。世界遺産認定されている3つの広場や芸術性を養う美術館、歴史を刻む建造物や美食の数々など、ナンシーの見所は尽きません。旅の目的地とするにも最高でしょう。滞在を通して感性が刺激され、新たなインスピレーションを得ることもできるかもしれません。

首都であるパリに近いナンシーへのアクセスは、高速鉄道「TGV」の使用が一般的です。パリからの所要時間はおよそ1時間40分。めくるめく電車の旅を堪能することができるでしょう。時間的に日帰り滞在も可能です。歴史と芸術が根付いた街ナンシー。印象に残る滞在を謳歌するには、この街を訪れることがベストです。フランスで屈指の観光地が溢れる街。ナンシーの魅力、今度はあなた自身で心ゆくまで体感してみてはいかがでしょうか?

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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