Prumsodun Ok & NATYARASA:カンボジア初のゲイダンスカンパニー

Prumsodun Ok & NATYARASAは、クメール古典舞踊に新しい風を吹き込む、カンボジア初のゲイダンスカンパニーである。1970年代の内戦下で途絶えかけた伝統舞踊を再現するとともに、革新的な創造性を付与したパフォーマンスは、カンボジア国内外で高評価を得ている。また、パフォーマンスを通じ、LGBTQの人々の尊厳や生活の質が保たれる社会のあり方を提唱している。

1000年以上もの歴史を有するクメール(カンボジア)古典舞踊。アニミズム信仰を起源とし、ヒンドゥー教・仏教の影響を受けながら、神々に捧げる聖なるダンスとして9〜15世紀のアンコール王朝時代に繁栄しました。

以降、優美で流れるようなダンスは宮廷内で発展してきましたが、1970年代のクメール・ルージュ政権下で行われた大虐殺は、ダンサーの9割が命を失い、伝統を途絶えさせるという悲劇をもたらしました。

内戦後、わずかに生存したダンサー達の働きによって再生・継承されてきたクメール古典舞踊ですが、今、若き創造力を得て新たな形で花開こうとしています。

今回ご紹介するのは、カンボジア初のゲイダンスカンパニー「Prumsodun Ok & NATYARASA」。女性ダンサーが目立つカンボジア古典舞踊の世界において、男性ダンサーのみで構成された革新的なチームです。

芸術と人間の尊厳とが交差する場で活動をし、数々の海外メディアからも称賛の声を浴びる彼らのミッション、ダンスの真髄はどこにあるのでしょうか。

カンパニー創設者のPrumsodun Ok氏(以下、Prumsodun)にお話を伺いました。

男性達のたおやかな舞がいざなう、クメール古典舞踊の神秘的な世界

プノンペンにある「Java Creative Café」Toul Tom Poung店に併設されたミニシアターにて、毎週土日に開催されているショー「VAJRAMALA:Spirit of Khmer Dance」。

厳かな雰囲気の中で現れたのは、長い髪を垂らし、女性的な衣装に身を包んだダンサー達。きらびやかな首飾り、冠、スカートにトップレスの衣装が新鮮です。

しなやかで優美な舞を踊るダンサー達は、いずれも男性。
演目は、ヒンドゥー教・仏教の哲学に影響を受けたストーリーに基づくものが中心で、近代に再振付されたものを踏襲しているものもあれば、Prumsodunが振付を行なったものもあります。

中には、男性性と女性性が結合した神話のイメージをテーマにするなど、ゲイダンスカンパニーならではの視点を感じさせる演目も。現代的なPOPミュージックに合わせて踊るものもあり、新しい風を感じさせてくれます。

スピリチュアルなサウンド、照明によって生み出されるのは、観ている側の身が引き締まるほどに神聖で荘厳な空間。ダンサー達のゆっくりと曲線を描くような動き、繊細ではかない表情、一方で垣間見える強さが、時に涙さえ誘います。

ダンサー全員が男性というだけで新鮮ですが、伝統舞踊の根幹をしっかりと押さえながらも実験的な味付けをされているのが目新しく、随所にオリジナリティを感じることができるプログラムとなっています。

目指すのは、伝統舞踊の保護と新たな創造、人間の尊厳が守られる社会

カンパニーの創設者であるPrumsodunには、活動を通じて目指すべきゴールがあります。

「アーティスト・師範としての私のゴールは、大きく2つあります。1つ目は、クメール古典舞踊という伝統的な芸術形態を再現、再解釈し、最高の形で保護することです。」

「2つ目は、様々なボキャブラリーを使いながら新しいダンスを創造すること。例えば、神の愛を描くために、どのような振付、音楽、衣装を用いるのか?実験的なサウンドや英語のナレーションを取り入れるのか?文化横断的な要素を取り入れるのか?といったことです。」

カンボジア系アメリカ人であり、クメール古典舞踊のダンサーであり、ゲイ男性であるPrumsodun。複数の文化・コミュニティーの中・外・間にいる彼には、ゴールに達するための言語やアプローチが多様にあるのです。

「何か新しいものを創造することは、同時に芸術形態の保護を助けるものだと思うのです。観客の方々にも、『伝統とともに社会をいかに進化、変革させていくことができるのか?』といった視点で可能性を感じて頂けると思います。」

また、いくつもの文化的バックグラウンドを持つ彼が常に目を向けているのは、様々な形で歴史から抹消されようとしてきた人々の存在です。

「クメール・ルージュ時代の大虐殺で失われた多くのカンボジア人の命。アメリカにおけるエイズの流行によって失われた、たくさんの人生、ビジョン、可能性。そして、世界各地で絶えず社会から抹消されようとしているLGBTQの人々の存在。そういった存在は、私が人生を通じて向き合っていくべきものだと思っています。」

Prumsodunが目指しているのは、単に伝統を継承するだけでなく、消し去られようとしてきたこれらの人々の命と向き合い、彼らの声に耳を傾け、彼らを苦しみから解放することなのかもしれません。

さらに、Prumsodunは語ります。

「男性のみで行うパフォーマンスは、ある意味で私達のカミングアウトです。私達は伝統の中に、ゲイ男性のためのまっさらな空間を創りたいのです。」

導かれるように開かれた祖国カンボジアでの活動の道

ダンサーであり、振付師・ダンスの師範。
その他、著者、講演家と様々な顔を持つPrumsodunは、難民としてアメリカに渡った両親のもとに生まれた、カンボジア系アメリカ人です。

東南アジア圏以外で最大のカンボジア人コミュニティーを持つ、カリフォルニア州・ロングビーチで育ちました。

ダンスは、幼少期から自分の一部のようなものだったといいます。

「なぜダンスに興味を持ったかと聞かれてもわからないのです。気づいた時には常にダンスとともにありましたから。4歳頃から、姉妹のドレスを身につけ、テレビに映るダンスを真似して踊っていましたね。」

本格的にクメール古典舞踊のトレーニングを始めたのは2003年頃。
16歳の時でした。

その後、カレッジ時代には実験的映像やダンスを研究。
同時に、自身がダンスを習っていた学校で、クメール古典舞踊の師範として後進の育成に務めていました。

「当時、生徒達にはいわゆる伝統舞踊を教えていましたが、私自身は実験的なダンスを創り、パフォーマンスを行っていました。」

祖国カンボジアの地を初めて踏んだのは2008年のこと。
その後もカンボジアとアメリカを行き来していたPrumsodunでしたが、2015年にカンボジアに本格移住することに。

「当時、もっと色々な世界を見てみたいという欲求から、新たな居場所を求めて世界各地を旅していました。帰国し、メキシコに移住しようと決めて仕事を辞めた直後に、カンボジアでダンスプロジェクトを展開させるための基金を得られたのです。」

LGBTQの若者が広い世界に触れ、自らの人生を変革していけるように

当初は、カンボジアに移住することになるとは思っていなかったというPrumsodun。「Prumsodun Ok& NATYARASA」は、意図せず、ごく自然な流れで出来上がったものでした。

「プロジェクトのために、3ヶ月に渡るオーディションを実施しました。じっくりと時間をかけて、彼らの性格、人間性をも理解したいと思ったのです。ダンスには、肉体だけでなく、魂から湧き上がるものが必要だからです。」

12名の志願者達は、それまでクメール古典舞踊に触れる機会がなかった青年達。

「約1ヶ月半彼らを教えてみたら、彼らの動きが統一し、熱心に踊っているのが分かりました。その時、『なんと、私のリビングルームで本当のダンスカンパニーができてしまった!』と思ったのです。私の夢が高まり、同時に現実的に見えてきた瞬間でした。そして、芸術形態や人間性に最大のインパクトをもたらしたいなら、カンボジアでやらねばと悟ったのです。カンボジアは私にとって、長らく探していたホームのような場所だと思いました。」

メンバーの入れ替わりがありながらも、現在カンパニーには19歳〜25歳の6名のダンサーが在籍。いずれも決して裕福な家の生まれではなく、過酷な幼少期を送ってきたダンサー達もいましたが、カンパニーの一員となったことで、彼らには大きな変化があったといいます。

「まず、適正な給与を得ることで、経済的な面での向上があったのは明らかです。また、新たなアイディアや教育にアクセスできるようになりました。パスポートもなく、飛行機に乗ったこともなかった者達が、海外での公演機会を得て、新しい世界に足を踏み入れたのです。さらに、未だにLGBTQの人々に対する偏見がはびこる社会において、伝統を守り、美しく語ることで、環境を変革していく力を持ったともいえるでしょう。」

Prumsodunが目指すのは、ダンサーを育成することだけではありません。

「彼らを美しいダンサーにするだけでなく、自分の人生を担い、自分の声を持った人間にしたいのです。」

Prumsodun に、今後の展開について聞いてみました。

「一番の優先事項は、自立したダンスカンパニーをつくることです。活動を持続していくためには、十分な収益を生み出し、ダンサー達の生活の質を保たなければなりません。」

中には、無料で公演してほしいという声も挙がる中、アーティストの尊厳を守り、彼らがしっかりと生きていけるよう、公演チケットには適正な価格を設定しています。

「メンバー達が自由と尊厳を持ち、自立して生きていけるような状態を作る必要があります。それが結果的に伝統の保存にも繋がっていくのです。」

また、カンパニーとしての自立・持続には、経済面以外の意味合いも含まれます。

「ダンサー達が次世代のアーティストを育成していけるように、学校のような仕組みを作っていく必要があると思っています。」

将来的には、ダンススクールの領域を超え、さらに大きな構想を描いているPrumsodun。

「現在は、自分の会社の活動に集中していますが、将来的にはもっと包括的な、アート・カルチャー分野を横断するクリエイティブなプラットフォーム、インフラ、制度を作れたらと思っています。」

伝統への革新的なアプローチで「多様性」を体現するダンスカンパニー

伝統を保護しつつ、独自のエッセンスを加え、新たな創造をすること。

内戦下で伝統文化・芸術を継承していく道が軒並み閉ざされかけたカンボジアでは、様々な分野において同様のゴールを目指して活動する人々は、他にも存在します。

そんな中、多様な文化的バッググラウンドを持つ創設者Prumsodunならではの独自のアプローチが光る「Prumsodun Ok& NATYARASA」の活動とパフォーマンス。

パフォーマンス自体が多様性を尊重する社会を生きることへの意思表示であり、LGBTQをはじめとする人々の人生を開くことにも繋がっているのです。

ぜひ、磨き上げられた最上級のクメール古典舞踊の技芸と、ダンサー達の魂から湧き上がる芸術・人生への想いを感じてみてください。

Prumsodun Ok& NATYARASA

<公演情報>
■公演日程:
毎週土曜・日曜18:30〜1時間程

■公演場所:
53 Street 468, Phnom Penh,
Tuol Tompung地区、Java Creative Café 内、Counterspace Theater
https://javacreativecafe.com/

■料金:
$25.0/1席

■チケット予約・購入方法:
ショー開催日直前の金曜日までに、下記WEBサイトまたはEmailアドレスにて予約・購入が必要

・Last2Ticket.com
https://hello.last2ticket.com/event/882

・Emailアドレス
info@prumsodun.com

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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